「12プレミア」の記事一覧(12 / 21ページ)

メリー喜多川・ジャニー喜多川の姉弟は、足利尊氏・足利直義兄弟 !? “お家騒動”として眺めるSMAP騒動の歴史学

――「週刊文春」誌の報道をきっかけにして2016年頭からメディアを騒がせ、ついにこの8月、グループ解散を発表したSMAP。さまざまな疑惑が噴出し、解散発表後もいまだに火がくすぶり続けているが、この騒動をただの芸能ゴシップとしてではなく、芸能界有数の大手プロ・ジャニーズ事務所が巻き起こした、血で血を洗う“お家騒動”として見立ててみたら? ジャニーズ事務所は、二頭体制の実力派武家? 飯島マネージャーは、その下で有能ゆえに抜擢されながら、謀反を起こした家臣? 歴史に学ぶ、SMAP騒動の原因、そしてこれからを紐解いてゆく。

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ファンの願いもむなしく、8月14日に解散を発表したSMAP。

 それはまさしく、戦国時代の“お家騒動”さながらであった。

 2016年1月、日本中を騒がせた「SMAP解散」報道。「SMAP育ての親」ともいわれるジャニーズ事務所のマネージメント室長(当時)の飯島三智女史(59歳)が事務所を退社するに伴い、中居正広、稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の4人が共に独立を企て、独立に反対する木村拓哉と分裂危機にあると報じられたのだ──。

 SMAPをここまで導いた飯島女史は、入社当初は単なる電話番だったという。ところが、ジャニーズ事務所がジリ貧となっていた90年代初頭のアイドル氷河期に、鳴かず飛ばずだったSMAPを担当、現在のポジションにまで育て上げ、事務所に莫大な利益をもたらしたという。その手腕がジャニー喜多川社長からも認められ、11年からは山下智久、Kis-My-Ft2、A.B.C-Zのほか、ジャニー氏がプロデュースしたSexy Zoneをも担当することとなっていく。

 ジャニーズ事務所は、現在84歳のジャニー喜多川氏が社長としてタレントの発掘・プロデュースを行い、89歳の姉・メリー喜多川氏が副社長として経営実務を担う、二頭体制の組織であることはよく知られた事実。しかし社長も副社長も高齢ゆえ、おのずと近年では、“跡目争い”が社内外で意識され始めていた。ジャニー氏には子どもはいない。そこで有力候補とされていたのが、メリー氏の一人娘・藤島ジュリー景子氏(51歳)である。

 順当にいけば、ジュリー氏が後を継ぐことになるのだろう。しかし、飯島女史の台頭は、ジュリー氏をおびやかした。飯島女史は、担当するタレントとSMAPとのバーター出演を盛んに行い、“飯島派”を形成。ファンの間では、「飯島派のタレントは、“ジュリー派”のタレントとは共演できない」なるウワサがささやかれ、徐々に各種メディアで両者の対立疑惑が報じられるようになっていく。

 盤石と思われた飯島女史の形勢に陰りが見え始めたきっかけは、「週刊文春」(文藝春秋/15年1月29日号)におけるメリー氏のインタビュー記事だといわれている。メリー氏はそこで、「私の娘が(会社を)継いで何がおかしいの?」と憤慨し、次期社長は娘のジュリーだと明言。さらに、突然飯島女史を呼び出し、「SMAPは踊れない」「飯島に踊りを踊れる子を預けられない」と侮辱した上、「もしジュリーと飯島が問題になっているなら、私はジュリーを残します。自分の子だから。飯島は辞めさせます」と記者に宣言したのだ。

 我が身を顧みず社の立て直しに貢献していながら、恥をかかされた形となったこの一件によって飯島女史は、前述の独立画策へと動き始めたともいわれている。それはおのれを取り立ててくれた恩義ある主君への謀反。いわば下克上とさえ呼べるものだったのかもしれない──。

 歴史をひもとけば、古今東西、同様の例はいくらでもあるだろう。しかし、その結末はさまざまだ。血縁に勝てず敗れ去った者、実力が血よりも重んじられ頂点を極めた者、醜い内紛の末にすべて崩壊してしまった組織──。

 翻って今回のSMAP騒動の顛末は、ご存じの通りである。1月18日、『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で5人そろって生出演、メンバーが世間に“謝罪”するというパフォーマンスで、一旦その幕が下ろされることとなった。

 このとき草彅は、「今回、ジャニーさんに謝る機会を木村くんがつくってくれて、いま、僕らはここに立てています。5人でここに集まれたことを、安心しています」とコメント。独立を企てたとされる、木村以外の4人は、木村の勧めでジャニー氏に頭を下げ、飯島女史には付いていかないことを誓ったというわけだ。そして飯島女史は、ひっそりと2月に退社。実力者が血に負けて、敗れ去ったのである──。

 芸能史に残るこのSMAP騒動を、単なる芸能ニュースの枠を超え、過去に幾度となく繰り返されてきた歴史上の出来事になぞらえて比較してみるとどうだろう。そこから、謀反がうまくいくケース、逆にお家騒動を未然に防ぐ防御策などのパターン分析、あるいは教訓めいたものさえ導出可能なのではないだろうか?

 そこで本企画では、歴史の専門家や経営、法律のプロに、今回の一件をどのように捉えるべきか、取材を重ねていく。飯島女史はなぜ敗れたのか? SMAPの面々はなぜ謝らなければならなかったのか? その問いに答えてくれるのは、芸能記者ではない。人が織り成してきた人間ドラマの数々──つまり、歴史なのである。

(文/安楽由紀子)

【2】ジャニーズ事務所と歴史上のお家騒動を徹底比較!こうすれば解散を回避できた!?(8月19日公開予定)
【3】SMAPの女性マネージャーはなぜジャニーズへの“謀反”に失敗したか?(8月19日公開予定)
【4】兄弟仲が良かった足利家とジャニー家の類似点を探り、SMAP独立失敗の原因を探る(8月19日公開予定)

錯綜する「有吉・夏目 熱愛報道」の舞台裏――交際の事実はあるが…事務所からの圧力でマスコミ沈黙か?

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テレビ朝日『マツコ&有吉の怒り新党』HPより

 24日に日刊スポーツがスクープした有吉、夏目の交際報道だが、ビッグカップル誕生にもかかわらず、当日のワイドショーは完全無視を決め込むなど異様な展開を見せている。2人の交際、妊娠の有無は果たして事実なのか。

「昨年から交際の噂があり、写真週刊誌をはじめ、各誌が2人の自宅を張り込みましたが、ツーショットどころか、互いに異性の気配すらありませんでした。しかし急に週末にかけて夏目が妊娠しているという怪情報が流れ、各誌裏取りに動きましたが、確証が掴めず見送りに。そんな中で日刊スポーツがスッパ抜いたので、皆驚き、『やられた!』と悔しがっています。もっとも日刊の記事では双方の事務所からのコメントはなく、不可解な点も多い。現在も各誌が取材に動いています」(週刊誌記者)

 ビッグニュースでありながら、テレビは腫れ物に触るかのように熱愛騒動をスルーしている。

「夏目が所属している田辺エージェンシーの上層部から各局の編成に『一切報じるな』と当日の早朝に連絡があったようです。田邊社長のマスコミに対する影響力は絶大で、テレビ局にも睨みを利かせています。現場レベルではどうしようもなく、各局のワイドショーはだんまりを決め込むことになりました。田辺サイドがマスコミ報道を仕切っているため、有吉の所属する太田プロもコメントすら出せない、というのが実情です」(ワイドショー関係者)

 田辺サイドからの動きがあるまで、テレビは静観することになるのだろうか。

「現在進行形か否かは不明ですが、2人が交際していたのは事実のようです。日刊スポーツの報道にあるように本当に妊娠ともなれば『あさチャン!』の司会をしている夏目への影響は大きく、スポンサーをはじめ関係各所との調整にも時間がかかります。また妊娠の事実がなければ、交際自体を揉み消す可能性もなくはない。それほど田辺サイドはナーバスになっており、今後の対応を含め、現在双方の事務所が話し合っています。事務所側は、今後子飼いのマスコミを使って情報戦を仕掛けてくる可能性もあります。ワイドショーは腰が引けているので期待できず、週刊誌がどう報じるか、腕の見せ所といったところでしょう。」(前出・週刊誌記者)

 水面下での動きも活発化しているようだ。今後の動向に注目しよう。

【橋本マナミ】中国の大河ドラマ『武則天』に触発され…ついに立候補を決意す!?

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(写真/黒瀬康之)

――総製作費56億円を投じたという中国の大河ドラマ『武則天-The Empress-』。この作品のヒロイン武則天を、“国民の愛人”橋本マナミはどう見るのか……!?

 中国歴代王朝の中で最も華やかだったとされる唐の時代(西暦618~907年)。その第2代皇帝・李世民の統べる後宮に入宮した武則天は、のちに中国史上唯一の女帝として君臨する。彼女の数奇な生涯を壮大なスケールで描いた中国ドラマ『武則天-The Empress-』が、このたびDVD化される。

 日本では「則天武后」という名でも知られる武則天は、その功績をたたえられる一方で醜聞も多く、中国三大悪女のひとりに数えられてもいる。しかし本作では、この悪女イメージを刷新。主演にアジアのトップ女優、ファン・ビンビンを迎え、武則天の“純愛”に光を当て、陰謀が渦巻く宮中を、王への愛と自らの才気を武器にサバイブする“美しすぎる女帝”の物語へ昇華させている。

 そんなドラマ『武則天』を、下積み時代を経て「国民の愛人」として大ブレイク、放送中のNHK大河ドラマ『真田丸』では細川ガラシャ役を務めるなど、武則天と同じく女性のサクセスストーリーを体現している橋本マナミさんはどう見るのか?

「まず、武則天役のファン・ビンビンさんをはじめ出てくる女性たちがとにかくきれいでセクシーで、衣装もとことん豪華なので、それを眺めているだけでも楽しいですね」

 本作では、そんな美女たちが皇帝の寵愛を得ようと策略をめぐらす姿も生々しく描かれている。橋本さんも、おじさまキラーなイメージがあるが……。

「私はこう見えて、自分の実力を評価されたいし、権力のある男性に媚びて仕事を取る行為は大嫌いなんですよ!(笑) 武則天は李世民の寵愛を一身に受けるわけですが、彼女に打算はありませんし、むしろそれは彼女の才能を高く買われた結果なんですよね。だから、そんな彼女を応援したくなりました」

 ドラマでは、武則天を引きずり下ろすべく、宮中での裏切りや騙し合いもえげつなさを増していくが、芸能界でもそうした女同士の足の引っ張り合いは珍しくないという。

「ある事務所に占いが得意な女の子がいたんですけど、その子はほかの女性タレントの手相を見ながら『恋してるでしょ?』みたいなノリで彼氏の有無や恋愛の悩みを聞き出して、それを全部事務所の偉い人に密告していたんですよ。その事務所は恋愛禁止だったので……」

 まさにドラマの中でも、「唐の世は3代で滅び、女帝武氏が取って代わる」という予言が流布し、武則天が窮地に立たされる場面がある。芸能界にしろ宮中にしろ、周りがライバル=敵だらけという状況下では、何が致命傷になるかわからないのだ。

「だから、私は同じ業界にいる人には気を許さないようにしてるんですよね。おかげであまり友達ができないんですけど(笑)。このドラマでも、武則天の親友の女の子が、李世民との仲を深める武則天に嫉妬して反目するようになってしまうんです。根は悪い子じゃないんですけど、異性や利害関係が絡むと、ねえ」

 ところで、武則天は国のトップとして政治の世界でも辣腕を振るったが、橋本さんにも日本のトップに立ちたい、なんて野望は……?

「あはは(笑)。まあ、いまの世の中に対しての不満は当然ありますよ。実は最近、時事問題についてコメントを求められることが増えているんですけど、政治の問題ってたいてい過去からつながってるじゃないですか。だからいま、家庭教師をつけて政治史を教わっている最中なんです」

 ならば、ゆくゆくはタレント候補として出馬する可能性も?

「誰も私に投票なんてしてくれないですよ! だって、『国民の愛人』ですよ?(笑) でも、もし私が政治家を目指すとしたら、それこそ武則天のような覚悟としたたかさが必要でしょうね。そういう意味では、国を治める人間の心構えみたいなものも、このドラマから学べるかもしれませんね!」

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『武則天-The Empress-』
中国史上唯一の女帝としてその名を轟かす武則天。一介の側室だった彼女は、いかにして時の皇帝・李世民に見初められ、最高権力者の座を手に入れたのか? 中国本国では2015年に放送され人気を博した愛と野望渦巻く歴史エンタテインメントが、日本でもついにDVD化。16年9月2日よりDVDセットが各1万6000円にて順次発売(同時レンタルも開始)。発売・販売/NBCユニバーサル・エンターテイメント

(写真上)10代から80代までの武則天を演じきったファン・ビンビン。1981年生まれで、ハリウッド作品にも出演している。(写真下)チャン・フォンイー演じる唐王朝第2代皇帝・李世民と武則天。彼の寵愛を受け、武則天は徐々に王宮内での地位を獲得していく。

はしもと・まなみ
1984年8月8日、山形県生まれ。身長168センチ。97年デビュー。14年の写真集『MANAMI BY KISHIN』(小学館)で「愛人にしたい女」「平成の団地妻」としてブレイク、以降バラエティ番組、ドラマ、映画、CMと幅広く活躍。

【哲学者・萱野稔人】Kindle版、Kindle Unlimited配信記念インタビュー&“活字と電子書籍の過剰供給”の哲学的解釈

 Amazon.comによるKindle Unlimitedのサービスが開始された。哲学者・萱野稔人氏は、「月刊サイゾー」の連載において、『複製技術時代の芸術』(ヴァルター・ベンヤミン/晶文社)を引用しながら、複製できる芸術の登場により、書物などの作品からアウラが消滅する事を論じている。

 ここでは同氏の著作『哲学はなぜ役に立つのか?』のKindle版、そしてKindle Unlimited配信を記念して、特別インタビューと同テーマを扱った連載を再録したい。

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『哲学はなぜ役に立つのか?』好評発売中

――書名は『哲学はなぜ役に立つのか』というタイトルですが、そもそも哲学って具体的に何かの役に立つことはあるのでしょうか。

萱野 多くの人は哲学のことを、プラトンやアリストテレスに始まって、デカルトやヘーゲル、カントなどの哲学者がどんな思想を持っていたのかを学ぶもの、というイメージを持っています。それだと哲学が役に立つという感覚は確かにしないですよね。ただ、当然ですが、哲学はそんな哲学史の知識にとどまるものではありません。哲学はあらゆる分野に広く実践できるものなんですよ。

――普通に暮らしていて哲学を意識することはほとんどないですが……。

萱野 どんな問題でもいいのですが、例えばクオータ制の導入について賛否の分かれる議論がされていましたよね。これも哲学的な問いといえます。

――クオータ制というのは、女性の社会進出を促すためにリーダーや管理職などに女性が占める比率を決めて優先的に割り当てる制度ですね。政府は2020年までに社会のあらゆる分野で、指導的地位に女性が占める割合を30パーセント程度にするという目標を掲げています。

萱野 これは、限られている指導的地位や管理職のポストをどのように割り当てれば、平等で社会的な正義にかなうものになるのかという問題です。現在は社会進出している男性の数が女性に比べて圧倒的に多いので、能力だけを基準にすれば必然的に男性の占める割合は高くなります。それならば男女平等の実現のためにも優先的に女性を割り当てるべきだという主張があり、一方でクオータ制によって本来なら管理職になる能力のある男性がポストから外されるのであれば男性への逆差別になるという主張もあります。

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【宗教学者・島薗進×社会学者・橋爪大三郎 対談本出版記念!】宗教的、社会学的『人類の衝突』連載特別再録

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『人類の衝突』8月17日発売。予約受け付け中。

 なぜ、宗教と文明は対立するのだろうか? そして、日本は何を考え、どう立ち振る舞うべきなのか――。

 日本を代表する宗教学者と社会学者の泰斗による対談『人類の衝突』が「月刊サイゾー」に掲載されたのは2015年3月号。当時、イスラム国による日本人拘束事件は、最悪の結末を迎えた。あれから1年半以上経った現在、宗教の対立に、解決の道筋は見えていない――。

 ここでは、「月刊サイゾー」に掲載された連載を大幅に加筆し、注釈を加えた書籍化を記念し、第一回を特別に無料公開としてお届けしたい。


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(写真/江森康之)

 人間の文明は、なぜ互いに衝突し合うのか――。社会学、そして宗教学の重鎮2人による「現代日本と宗教」というテーマを予定して始まったこの対談、”宗教”という概念の性質上、話題は”人間と文明””国家とイデオロギー””文化と民族”といった幅広い範囲に及んだ。

 日本における宗教学の第一人者・島薗進と、社会学の第一人者・橋爪大三郎。この日が事実上の初顔合わせだったが、同じ1948年生まれの2人は、宗教学と社会学という別の学問領域から、実は同じところを見ていたようだ。「日本と世界の文明はどのように構成され、21世紀の今、どこに向かおうとしているか」というテーマを、縦横無尽に語り合う。文明の構造を知らなければ、なぜ文明が相争うのかも説明できない。イスラム国によるテロや、日中韓の関係悪化を考えるためにも、その考察は欠かせないだろう。数回に分けてお送りするこの対談は、両氏が共同で作り上げた、21世紀を生き延びるための「文明論の概略」である。

島薗 橋爪さんは非常に大きい世界史的規模で宗教について考えていらっしゃるので、今日はそういったまなざしで日本の世相を見るとどう見えるのかな、ということを伺いたいと思っています。

 社会学が全体的にデータの取れる領域をこぢんまりと実証する方向に向かいがちな中で、橋爪さんのなさっている仕事は、社会学が本来持っているべき視野を回復するという意味で、私はとても共鳴しているんです。

橋爪 それは恐れ入ります。

 例えば、社会学者のマックス・ウェーバーはひと昔前、日本で評価が高く、ウェーバリアンといわれる研究者が大勢いましたが、今では時代遅れということになっています。

 当時、ウェーバリアンたちがなんと言っていたかというと、「日本は、ウェーバーの掲げる近代化のものさしに従って、しっかり近代化しなければいけない」といった主張だった。そうこうするうち「日本は先進国に成り上がって、高度資本主義やポストモダンの段階になったのだから、日本は実ははるかに進んでいるのだ」と、80年代から言われだした。

 ただ、ウェーバーは別に近代化論をやろうとしたのではない。ウェーバーが優れていたのは、「世界はまだらだ」と言ったことだと私は思います。キリスト教文明は絶対でも普遍でもなく、単なる「ワンオブゼム」にすぎない。世界にはユダヤ教も、イスラムもヒンドゥーも、儒教文明もある。そういう人類社会の多様性を、ウェーバーは一番描いてみたかったんだと思います。

島薗 確かに日本の社会学ではウェーバーの近代化論の影響はとても大きかったと思いますが、宗教倫理の図式を整理し直すという話はウェーバー専門家の中で終わってしまって、世界の文化の違いが深刻な問題として残り続けるという現在の問題意識については、学問研究が十分に進んだとは言い難いような気がします。

 それは世界においてもそうで、やはり異文明の研究というのは文献学的な土台が必要になることから、なかなか取り組めない。西洋の学者は、インドや中国・東アジアの文明については、少なくとも古典文献から読むという姿勢はなかなか身に付いていないようです。

 そういった中で、日本人は西洋人とは違うという自意識を持ってきていますから、それを踏まえれば、日本的な観点から世界文明を比較し、それが私たちの生活にどう影響しているかを考察するという視座が出てきてしかるべきだと思います。そのあたりを今日はじっくりお話ししたいですね。

橋爪 そうですね。

島薗 そう考えたときに、ひとつの大きな基盤となる考え方は、冷戦後の社会は世界がいくつかにブロック化するということです。

 これは、サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』(邦訳98年/集英社)などでも似たような議論がなされましたが、かつて冷戦時代は東対西という分裂があった。つまり「西=自由主義陣営で個人の自由を重んじる世界」と「東=共産主義陣営で集団的な秩序を重んじる世界」という枠組みがあったわけですが、冷戦終結後はそれに代わって、各文明圏が各々の宗教的伝統にのっとって社会を構成するようになっていった。

 一般的にはそのように理解されているし、私自身もそれに近い考えを持っていますが、それでは、日本は儒教と大乗仏教の組み合わせにより構成される東アジア文明圏に属するのかというと、ハンチントンは中国と韓国は儒教文明だが、日本は独立した別の文明であると提唱していた。あの議論には政治主義的な要素もうかがえるので怪しい箇所もありますが、確かにうなずける部分はあると私も見ているのですが、いかがでしょうか。

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「KILLER」Tシャツで法廷へ臨んだ“スクール・シューター” 現場で自殺しなかった銃乱射事件犯人

――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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細いペンではっきりと「KILLER」と書かれたTシャツを着ている。

 2012年2月27日、オハイオ州シャードン高校のカフェテリアに10発の銃声が鳴り響いた。パニックと化した現場で逃げ惑う生徒達は、銃声が聴こえた方角を振り返り、目を疑った。そこには、内気でシャイなトーマス・T・J・レーン(当時17歳)が立っていたからだ。

「何であいつが……。すごくおとなしい奴だったんだ」

「彼がこんなことするなんて信じられない。人前で話すのも苦手な、シャイな子だったのに」

 周囲の人間が口々に証言するトーマスの人物像は“影の薄い存在”であった。しかし彼はこの日から、「悪名高きスクール・シューター」として全米に名を馳せることとなる。

誰も彼のことを気にかけなかった

 幼い頃から両親による家庭内暴力を目の当たりにしていたトーマスは、その後祖父母に引き取られて育った。中学校時代は友人たちとスケートボードやバスケットボールも楽しんだが、高校に進学する頃には周囲との交流を絶ち始める。やがて1人で行動するようになった彼を、周囲は「何を考えているかわからない奴」と影口を叩くようになり、唯一の理解者であったガールフレンドさえ、彼のもとを去っていった。

「いつも寂しそうな目をしていたけど、特に変わった様子はなかった」。毎朝スクールバスで顔を合わせる友人たちは、彼を気に掛けることはなかった。そうして自ら孤立の道を選んだトーマスは、別れたガールフレンドに新しい恋人ができると、さらに少しずつ変化を遂げてゆく。それももちろん、決して良くはない方向に、だ。学校での彼とは別人のような、威圧的な姿を自撮りし、次々とフェイスブックに投稿するトーマス。その中には、体を鍛えあげ、上半身を誇らしげに見せつける姿もあった。詩のような文章を投稿し、最後には「みんな死ね」と綴った。

 だが、周囲の人間は彼の存在と同じように、そうした発言を気に留める事をしなかった。

元ガールフレンドの恋人も被害者の中に

 犯行の日、彼はいつも通りスクールバスに乗って登校した。学校に着くと、同級生に会釈だけをして、何もしゃべらずにカフェテリアに向かう。それは、いつもの内気なトーマスの姿だった。

 だがその直後、トーマスは所持していた拳銃を握りしめ、朝食を取っていたグループのテーブルに歩み寄り、10発を発砲。3人を射殺、3人にけが負わせたのだ。死亡した被害者の中には、元ガールフレンドの新しい恋人であった、男子生徒が含まれていた。

 逮捕されたトーマスは、殺人・殺人未遂などの罪で起訴されたが、弁護側は、精神疾患の可能性を盾に、無罪を主張。しかし、逮捕から1年後、トーマスは突然罪を認め始めた。

悪名高きスクール・シューター KILLERと名乗った少年

 社会的孤立から犯行に走る、スクール・シューティングが頻発するアメリカでは、その犯行後、犯人の多くは自殺を遂げている。1999年に発生したコロンバイン高校銃乱射事件で、13人を射殺し24人に重軽傷を負わせたエリック・ハリスとディラン・クレボルドも校内で自殺を遂げているし、2007年のバージニア工科大学で32人を射殺したチョ・スンヒも、2012年に母親を殺害し、サンディフック小学校に押し入って26人を射殺したアダム・ランザも、最後には自ら命を絶っている。

 そうした前例がありながら、今回、死者数が3人に留まり、すでに罪を認めているトーマスが歴史に残る「悪名高きスクール・シューター」と呼ばれるようになったのは、逮捕後の彼の行動にあった。

2013年3月19日、裁判所で量刑のための審問が行われたこの日、トーマスは水色のシャツを着て出廷。被告席に着席した彼は、おもむろにボタンを一つずつ外し始めた。そして、シャツの下に着ていた白いTシャツを露わにし、マジックで書かれた「KILLER」の文字を誇示したのだ。さらに、被害者の遺影を持った遺族が発言を始めると、トーマスは微笑みながら、遺族に向かって中指を立てながら呟いた。

「この手で引き金を引き、あんたらの息子を殺したんだ。これからは、その感触を思い出してマスターベーションをするよ」

裁判官は、仮釈放なしの終身刑を言い渡した。

ネットのヒーローとなる犯罪者

「KILLER」と書かれたTシャツを着て、遺族に向かって中指を立てるセンセーショナルな映像は、テレビ局にとって視聴率を上げる為の格好のネタとなった。スタジオではキャスター達が、彼の犯した愚行への批判を続けた。

 だが繰り返しテレビで流されるトーマスの姿に批難が集中する一方で、一部の人間たちは彼を英雄視し始める。ネット上には、彼の画像を集めたファンサイトが開設され、ハートマークでコラージュされた彼の写真が投稿された。さらに、彼の名前を使ったハッシュタグで意見交換をし、中にはまるでロックバンドのTシャツを着るかのように、「KILLER」と書かれたTシャツを着る少女まで現れた。

 獄中で一生を過ごすことになったトーマスは、そうした自分を取り巻く状況を知ってか知らずか、判決から2年後、収監されている刑務所から脱走を試み、失敗に終わっている。彼は事件から4年が経った現在も、被害者への謝罪、そして動機を語っていないままだ。

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

「好きなママタレ」2位の小倉優子が、夫の不倫でも離婚に踏み切れない理由

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『小倉優子の毎日おいしい♡おうちごはん』(扶桑社)

 第2子妊娠中のタレント小倉優子の夫で美容師の菊池勲氏が、小倉と同じ事務所に所属するアイドルの馬越幸子が不倫していたことを8月3日発売の週刊文春が報じた。

 グラドルだった小倉はこりん星人というキャラ設定でブレイク。11年に年収8000万円とも言われるヘアメイクアーティストの菊池氏と「玉の輿」婚。12年に第一子を出産すると、ママタレに転身し、出版したレシピ本2冊が合計25万部のベストセラーになり、14年に3冊目も上梓した。ブログでは日々の生活についてつづり、家事もしっかりこなすなど、今やカリスマ主婦として同世代のママたちから高い支持を得ている。

「第2子が妊娠6カ月という順風満帆のさなかに知らされた最悪の裏切り行為に、小倉は夫のケータイを投げつけ激怒したといいます。不倫相手の馬渕のほうは、所属事務所に『ご迷惑をおかけしてすいませんでした』と答えたそうですが、すでにブログやツイッターは消滅しており、解雇されるのは間違いなさそう。小倉は菊池氏との離婚も考えているようですが、4歳の長男やお腹の赤ちゃんのことを考えるとなかなか決断できないようです」

 子どものこともさることながら、小倉が離婚に踏み切れないのは、シングルマザーになった時の芸能界でのポジションだ。

「小倉は夫から事の顛末を聞いて真っ先に、ママタレのイメージが壊れることを非難したそうです。週刊文春が昨年発表した『好きなママタレ』ランキングでも北斗晶に次ぐ堂々の2位に入っている。トップ10のうち、シングルマザーは9位のスザンヌのみ。10位の松田聖子は微妙ですが、それ以外の顔ぶれはやはり夫婦の円満ぶりが話題となっている面々ばかり。離婚となれば小倉に『不幸な女』イメージがつくことは確実。彼女は計算が働くタイプですから、離婚は踏みとどまるのではないでしょうか」

 とはいえ、後輩の女に夫を寝取られた小倉としては、“今後どの面下げてテレビに出ればいいの”という気持ちだろう。

センスプが報じた新たなゲス不倫の裏で…小倉優子が「夫の不倫」と同じくらいなかったことにしたい黒歴史

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『小倉優子のはじめてママdays』(主婦の友社)

 8月3日発売の「週刊文春」に夫であるカリスマ美容師の菊池勲氏が、自分と同じ事務所のアイドル馬越幸子との不倫が報じられ、離婚危機となっている小倉優子。現在はママタレとしてブレイク中なだけに、烈火のごとく怒り狂ったという。

「小倉は自分のマネージャーに、『私のママタレキャリアがダメになるから、夫がすべて悪いことにして懲らしめてほしい』と指示。さらには、『離婚したらママタレで生きていけないのはわかってるでしょ!』とまくしたてていたそうです」(芸能記者)

 小倉はこれまで、グラビアアイドル→こりん星キャラ→ママタレと3度のブレイクを果たしている。その間も焼肉店経営や株取引、さらにはゴルフを始めるなど、芸能界でのポジションをつかむためにしたたかに計算を働かせていた。

 実はそんな彼女には、夫の不倫と同じくらいなかったことにしたい黒歴史時代が存在したことはあまり知られていない。それが「早口」と「ございます」キャラだ。アイドル誌の編集者が言う。

「売れる前に出演した『THE 夜もヒッパレ』(日本テレビ系)では、今でいう鈴木奈々のような超ハイテンションでキャーキャーと早口で喋っていました。さらに、当時の雑誌のインタビューでは明るいキャラがバラエティ向きだと言われ、『やや、そんなことないでございますよ。今年はドラマにも出たいですもん。優子、涙を流すのが得意でございますから』と、なぜかほぼ必ず語尾に『ございます』をつけています。この迷走の原因は、おそらくまだ芸風を模索中だったのでしょう」

 誰よりも「キャラ」や「武器」に苦心してきた小倉だからこそ、せっかく掴んだ「ママタレ」「カリスマ主婦」の座の重みを知っているはず。そのことをひっくるめて、夫の不倫を許すのか、否か……。

【小田嶋隆】アルコール依存症の男とその女、そして彼らの”練馬区”

東京都23区――。この言葉を聞いた時、ある人はただの日常を、またある人は一種の羨望を感じるかもしれない。北区赤羽出身者はどうだろう? 稀代のコラムニストが送る、お後がよろしくない(かもしれない)、23区の小噺。

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(絵/ジダオ)

 西武池袋線の石神井公園駅から住宅街を北に向かって10分ほど歩いたあたりに、かつて、その世界では名の知れたペットショップがあった。店内で放し飼いにされているケヅメリクガメと一緒に撮った写真を、彼はいまでも机の前の壁に貼り付けている。ペットショップとカメが、いまどうしているのかはよくわからない。あのあたりには、もう20年近く足を踏み入れていない。通過することさえ避けている。自分にはそうするだけの理由があると、山口進次郎は思っている。

 彼がそのペットショプにほど近いところにあるマンションを最も頻繁に訪れたのは、1990年前後のことだ。当時、進次郎はとある予備校の事務所のアルバイトから正社員の身分に引き上げられたばかりのトウの立った新入社員だった。

「進ちゃん?」

 電話をかけてきたのは彩乃だ。背後のノイズで、公衆電話からかけてきていることがわかる。部屋から電話をかけられないのは、例によって、何らかのトラブルが起こっているからなのだろう。

「……悪いけど、いまから来れる?」

 進次郎は黙って次の言葉を待った。返事に窮していたというよりは、伝えなければならない言葉がはっきりしすぎていて、その言葉をはっきりと口に出す決断に、時間を要したからだ。が、

「もうたくさんだ」

 と言う代わりに

「これからそっちに向かう」

 と答えて、結局、彼は、出かける支度をはじめた。いつも同じだ。こんなふうに、真夜中の電話で呼び出されるのは何度目だろう。少なめに数えても、10回以下ではないはずだ。

 彩乃は進次郎から見て、親友の妻ということになる。そうなる前のしばらくの間、彼女は進次郎のガールフレンドの一人だった。彼女が祥一のどこに惹かれたのかはわからない。あるいは、惹かれたとか心を奪われたとか、そういう浮わついた話ではなかったのかもしれない。あるタイプの女性は、沼の縁の斜面に足をとられるみたいにして、自らの運命の深みに導かれて行く。彩乃にとって、祥一はそういう抵抗しがたい深淵だったのだろう。

 祥一と彩乃が結婚してから一年ほどたった頃、進次郎は、引越祝いの名目で、二人にホルスフィールドリクガメの幼体をプレゼントしたことがある。

 ホルスフィールドリクガメは、カスピ海東岸からアフガニスタン周辺の乾燥地帯に生息している陸棲のカメで、ロシアリクガメとも呼ばれる。性質はおとなしく、飼育はそんなにむずかしくない。ミドリガメに代表される水棲のカメと違って、水場を必要としないため、部屋が臭くなることもない。散歩も要らない。エサは葉物の野菜でいい。

 値段はヒーター、サーモスタット、専用のライト(紫外線ライトとバスキングライト)、水槽、床材など、ひと通りの飼育セットをひっくるめて6万円ほどだった。

 プレゼントに生き物を選んだのは、深刻化しはじめていた祥一の飲酒癖をソフトランディングさせるためには、適度に手間のかかるペットを持ち込むことが効果的かもしれないと考えたからだった。

 祥一と彩乃は、結婚して一緒に暮らし始めるとすぐに共同生活に行き詰まった。どうしてなのかはわからない。が、とにかく、彼らは、週末ごとに進次郎を呼び出すようになり、次第に、二日、三日と滞在を求めるようになった。2人きりで居ると気詰まりだからというのが、彼らが進次郎の帰宅を阻もうとする時の言い分だった。たしかに、婚約時代から、祥一と彩乃は、進次郎を交えた3人のセットでいる時の方が自然に振る舞うことのできる、奇妙な関係のカップルだった。

 とはいえ、進次郎の仕事が忙しくなると、そうそう頻繁に彼らの家に泊まってもいられなくなる。それに、3人の共同生活は、自然なようでいて、やはり、どこか芝居じみていた。

 進次郎は、泥酔一歩手前の祥一に
「赤ん坊でもできれば少しは違うんじゃないか?」

 と言ってみたことがある。

 進次郎は、テーブルに突っ伏したまま、顔を上げずに、はっきりとした声で答えた。

「そいつはコウノトリが運んでくるのか?」

 なるほど。

 2人の間には、かなり長い間肉体的な交渉が無いということなのだろう。どちらかが拒否しているのか、あるいは祥一が酒のせいでその能力を失っているのかもしれない。別の考えを採用すれば、能力を失っていることが、彼の連続飲酒発作の引き金になっているという見方もできる。

 と、ここまでのところで、進次郎は考るのをやめた。彼らを問い詰めることもしなかった。知りたくなかったからではない。知ってしまった場合に、その事実に対処する自信がなかったからだ。

 ただ、赤ん坊の代わりに、カメでも飼うとかして、なんとか変化をつけないと、この二人はこのまま自滅してしまう、と、そう考えて、進次郎は、時々覗いていた近所のペットショップに足を運んだのだ。

「ほら」

 カメを披露する時、彼は言った。

「おまえたちの新しい家族だ」

 二人は喜んだようだった。

「名前は?」

「自分でつけろよ」

「じゃあ、進ちゃんにしようかしら?」

「かまわないよ。オレも、これからは、そうそうここに来れなくなるからな」

「どうしてさ」

「正社員になったからだよ」

「あら、おめでとう」

「ほんとか?」

「オレはいつも出遅れてるノロマだけど、ひとつ教えといてやる。最後にゴールのテープを切るのは、休まずに歩くカメだぞ」

「ははは。素晴らしくおまえらしい意見だな」

「とにかく、これからはこのカメをオレだと思って仲良く暮らしてくれ。たのむ」

 しかし、彼らがなんとか無事に暮らしていたのはほんの三ヵ月ほどで、祥一が体調不良を理由に会社を休職するようになると、カメの魔法は消えて、事態は悪化の一途を辿った。

 以来、進次郎は、近所の公園やマンションの廊下で泥酔して動けなくなっている祥一を拾い上げるために、何度となく出動していた。この日は、前回から数えて20日ぶりの出動だった。

 部屋に着くと、祥一は泥酔したまま眠っている。

 倒れているのが部屋の中だというのは、まだしも上等ななりゆきだ。とにかく、この厄介な男をベッドまで運ぶ仕事は、彩乃にはできない。オレがなんとかしなければならない。

「おい」

 声をかけても反応がない。

 うつ伏せの状態で倒れている肩をつかんで、裏返しにすると、吐瀉物がフローリングの床の上に広がっている。そんなにひどい匂いではない。ロクにものを食べていないからだろう。仰向けになった祥一の脇の下に両腕を差し入れて、そのまま後ろに引きずる。祥一のカラダは驚くほど軽い。たぶん50キロを切っている。アルコール依存症患者に太った人間はいない。体温の高い死体が無いのと同じことだ。

 ベッドまで運んで戻ってくると、彩乃は既に床の掃除をあらかた終えている。

「ごめんね」

 進次郎は直接返事をせず、壁に向かって話しかけるみたいな口調で言う。

「オレはこれで帰る。あいつは医者に連れて行った方が良い。目を覚ましたら、二度とオレに電話するなと伝えてくれ」

 進次郎はしばらく前から祥一の名前を発音することに忌避感を覚えるようになっている。で、「あいつ」と呼んだり「あんたの亭主」と呼んだり、「あの酔っぱらい」という言い方をすることで、名前を口にせずに済ませている。

「……」

 彩乃は黙っている。このことも進次郎を苛立たせる。彼がよく知っていた頃の彩乃は、黙って困惑しているような女ではなかった。どちらかといえば、困っている人間を問い詰めにかかるような、はっきりした性格の女だった。それが、いまや自分の意図さえ説明できない。

「ゲロの掃除が手際良くなったからって、それで事態が改善するわけじゃないぞ」

 進次郎は、腹を立てているのではない。むしろ責任を感じている。あいつがあんなふうになったのは、もしかしたらオレのせいなのかもしれないと、時々そんなふうに考える。それが考え違いであることはわかっている。アルコール依存症患者の周囲にいる人間は、イラついたりうんざりしたり怒ったりすることに、じきに疲れる。そして、感情を浪費することに疲労した人間は、いつしか責任を感じるようになるものなのだ。彩乃が陥っている事態はそれだ。彩乃が責任を感じる必要はないということを、進次郎は何度も伝えた。その理由も詳しく説明した。アルコホリックの家族が自責の念を抱くことは何も改善しない。むしろ事態を悪化させるだけなのだ、と。しかし、彩乃は責任の物語から外に出ることができない。進次郎自身、うっかりすると自責の念に苦しめられている。もしかして、自責は怒りや失望よりも対処することの容易な感情で、オレたちはその中に逃げこんでいるのかもしれない。

「ごめんね」

 と彩乃が何度目かの同じセリフを繰り返す。

「あやまるのはよせよ。君たちはいつもあやまってばかりいる。今何時だと尋ねれば、ごめんねと答える。いい天気だと話しかけても、許してくれと言う。オレはそういう反応にうんざりしている。あやまることと、責任を感じることと、考えこむことをやめて、とにかく今夜はこのまま眠って、明日の朝一番に病院に電話をしてみてくれ。頼む」

「……ごめんね」

「帰る」

 終電は既に走り去っている。練馬の裏道をタクシーが流している時間でもない。アタマを冷やす意味でも、家まで歩いた方が良い。そう判断して、進次郎は12月の夜道を南に向かって歩いた。

「待って」

 振り返ると、彩乃がすぐそばまで追いついてきている。

「私、あの部屋にあの人と2人きりじゃいられない」

「……」

「お願いだからせめて始発の時間まで居て」

「無理だよ。オレだってあんたらと一緒にあの部屋にいるのはごめんだ。もううんざりなんだ」

「……でも」

「悪いけど帰るよ。オレには明日があるんだ。あんたらには無いんだろうけど」

 最後の一言は余計だった。彼らの現状を考えれば残酷に過ぎた。そう思ったのは、彩乃が泣いていることに気づいたからだった。これまで、どんなにひどいことがあっても、彼女は無表情で試練に耐えていた。その、見ようによっては冷酷にも見える顔で、彼女は、祥一が引き起こす酒の上のトラブルをひとつずつやり過ごして来たのだ。

「進ちゃんがどうしても帰るんなら、私が進ちゃんの家に行く」

「バカなこと言うなよ」

 おそらく男女の間で起こる間違いのうちのおよそ半分は、愛情とは無関係ななりゆきが誘発するものだ。少なくともオレの場合はそうだ、と、進次郎は考える。オレは、惚れた女を口説いたことがない。好きな女を家に招いたこともない。いつも間違った女とたいして望んでもいない関係を築いて、自分でそのことにびっくりしている。まるで自分のゲロに驚いて目覚める酔っぱらいみたいに。

 祥一が川越街道の路上でトレーラーに轢かれて死んだという知らせがはいったのは、2週間後の、大晦日の明け方だった。彼は、真夜中の国道の車線をまたぐ位置で眠っていて、そのまま通りかかった11トントラックに轢かれたのだという。

 祥一が、彩乃と自分の間に起こったことを知っていたのかどうか、進次郎は、そのことを彩乃に尋ねることができなかった。

 告別式の日、喪主をつとめたのは祥一の父親で、彩乃は終始無言のまま、塗り固めたような無表情で親族席の一角に座っていた。

 葬儀が済んで、遺品の整理や住んでいたマンションの立ち退きがひと通り終わった時、残ったカメは、責任上、進次郎が引き取った。

 名前は、彼らが飼っていた時のまま、進次郎で通すことにした。進次郎が進次郎を飼うというのも奇妙な話だが、祥一と呼ぶのはなおのことキツいし、ほかの名前もピンと来なかったからだ。

 ギリシャリクガメの進次郎は、二年ほど彼らに飼われていたことになる。8センチだった甲長は13センチまで成長している。甲羅の色艶も良い。大切に飼われていたということだ。

 カメを引き取って二ヵ月ほどが経過した頃、彩乃から一行だけの短い手紙が届いた。

「私たちのことは忘れてほしい」
 というのがその文面だった。

 私たちというのが、彼女と祥一のことを指すのか、彼女と進次郎の間にあった出来事を意味しているのか、進次郎には判断がつかなかった。

 カメは今年の4月に死んだ。

 思いがけないほど素直に涙が出た。

 祥一が死んだ時、彩乃と自分が泣かなかったのは、自分たち自身が半ば死んでいたからなのだろう。そう考えて、進次郎は涙を拭いた。

 彩乃には、あれ以来会っていない。忘れていない以上、会うわけにはいかないからだ。

小田嶋隆(おだじま・たかし)
1956年、東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。営業マンを経てテクニカルライターに。コラムニストとして30年、今でも多数の媒体に寄稿している。近著に『小田嶋隆のコラム道』(ミシマ社)、『もっと地雷を踏む勇気~わが炎上の日々』(技術評論社)など。

「週刊文春」「週刊新潮」が同時スクープしたNHK女子アナ愛人クラブ報道の裏側

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NHK室蘭放送局HPより

「週刊文春」、「週刊新潮」がスクープしたNHK室蘭放送局の現役女子アナが愛人クラブに登録していた騒動だが、どうも様子がおかしい。NHKというブランドはあるものの、マイナー地方局の名もなき女子アナについて、ライバル誌が同時に動くなど不可解な点が少なくない。スクープの裏側に何があったのか。

「両誌ともに名前は伏せていますが、当該の女子アナは室蘭放送局の山崎友里江アナで、現在ホームページは閉鎖されています。情報番組で道内情報を伝えるレポーターとして活躍し、ネット上では『期待の地方アナ』として取り上げられることはありましたが、あくまで知る人ぞ知る存在でした」(NHK関係者)

 とはいえ、現役女子アナが愛人クラブに登録していた事実には驚かされるばかり。いったい誰がリークをしたのか。

「愛人クラブに登録していた会員からマスコミ各社に売り込みがあったようです。山崎アナと実際に会ったものの、1回数十万円と吹っかけられたため交渉決裂。また高飛車な態度だったこともあり、腹いせにリークしたということのようです。山崎アナも愛人クラブで自分を高く売り込むためか、『地方で女子アナをやっている』と口走ってしまい、それが命取りになってしまったようだ。「女子アナ」という肩書きはクラブにとっては常連に対して恰好の売り文句。興味を示した会員も多かったそうです」(週刊誌記者)

 リークにマスコミ各社は一斉に動いたという。

「『週刊文春』、『週刊新潮』の他に写真週刊誌も取材を進めていたようです。『新潮』の動きを察知した文春は、発売日前にネットにニュースを配信し先手を打ちました。後手に回った『新潮』は負けじと室蘭という支局名まで出し、山崎アナの親にも直撃しています。山崎アナ本人はNHKへの不満を語っていますが、さすがに支局内に擁護する者はいないようです」(前出・週刊誌記者)

 女子アナとして脇が甘かったと言わざるをえないようだ。

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