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監督&主演ニール・ヤング! DEVOが原発作業員! 『ヒューマン・ハイウェイ』のヤバさについて

【リアルサウンドより】

 日本ではあまり一般的には知られていないかもしれないが、ニール・ヤングほどテクノロジーの進化に対して強い関心を持っているミュージシャンはいないだろう。いや、強い関心というレベルを超えて、それはもはやオブセッション(強迫観念)とでも言うべきかもしれない。

 近年のニール・ヤングがその知性と行動力と貴重な時間と莫大な財力を注ぎ込んできたのは、独自の規格の音源ファイルPono Musicの開発と、電気とアルコール燃料で駆動する自動車LincVoltの製作だ。それぞれの技術的なことを説明するとキリがないというか、はっきりと自分の手には余るので、興味のある方は以下の動画で確認していただきたい。現在70歳のニール・ヤングがどれだけイっちゃってるか、わかってもらえるだろう。

Neil Young Explains Pono Music And How It Raised Millions On Kickstarter

Neil Young Shows Haskell Wexler His LincVolt

 ニール・ヤングのすごいところは、新しい音源ファイルの開発も、アルコール燃料自動車の製作も、特許こそとっているもののお金儲けのためではなく、単純なロマンの追求でもなく、最先端なテクノロジーを使って「とにかく最もいい音質で音楽を聴かせたい/聴きたい」「往年のクラシックなアメ車を電気やアルコールで走らせて日常の移動ツールにしたい」と、すべてが「自分のため」であるところだ。彼はあくまでも「自分のため」に、自分の資産を投入し、自分で実験し、自分で開発し、自分で使用する。で、それが晴れて実現可能になったところで、世間に向かってそれをプレゼンする。それも、商品として買ってもらいたいというスタンスというより、「どうだ、これすごいだろ?」とまるで科学マニアの少年のようなスタンスで自慢するのだ。

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 そんなニール・ヤングが映画監督として1978年に撮影した作品『ヒューマン・ハイウェイ』が、初公開の1982年、そして日本で最後にビデオソフトとしてリリースされた1995年から、長い年月を経て遂に日本でBlu-ray/DVDとしてリリースされる。「え? ニール・ヤングが映画監督?」と思う人も多いかもしれないが、彼はバーナード・シェイキーという映画監督としての別名を持っていて、これまで長編作品だけでも5本(うち3本はドキュメンタリー)の作品を残している。

 で、今回リリースされる『ヒューマン・ハイウェイ』は1982年の初上映版から8分、ビデオ・バージョンから5分カットして約80分となった、2014年トロント映画祭で初公開されたディレクターズ・カット版。300万ドルもの私財を投げ打って自主制作した作品にディレクターズ・カットもクソもないと思うのだが(通常、ディレクターズ・カットというのは映画会社やプロデューサーからカットされた部分を監督自身が後になって復活させたバージョンを指す)、長年「なんとなく未完成な気がする」(「なんとなく」って!)という思いを抱いていたニール・ヤングが、撮影から35年以上を経て新たに手を入れたのが今回のバージョンなのだ。大きな子供のように好奇心旺盛なニール・ヤングのこと、70年代当時から映画制作にも手を広げていたこと自体は驚くにあたらないが(当時はゴダールの作品に心酔していたという)、彼にとって過去の自分の映画に手を入れることは、ガレージで工具片手にアルコール燃料自動車に改良を加えていくのと同じような感覚なのだろう。

 ニール・ヤングのテクノロジーの進化に対するオブセッションは、彼が33歳の時に撮った『ヒューマン・ハイウェイ』においても顕著に表れている。というか、テクノロジーの進化に対するオブセッションそのものが、本作のテーマであると言っていいかもしれない。

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 物語は、放射性物質がダダ漏れの原子力発電所/核廃棄物処理場(!)から始まる。全身から不思議な光を放つほど放射性物質に汚染されてしまっている原発作業員たちを演じているのはDEVO(!)の面々。そして、メインとなる舞台はその原子力発電所/核廃棄物処理場の街の片隅にあるガソリンスタンド兼ダイナー。そこで働くメカニックを演じているのがニール・ヤング(この頃からクルマをいじってる!)、ダイナーのコックが当時アル中&ドラッグ中毒でハリウッドに干されていた頃のデニス・ホッパー(!)、そして店のオーナーが名優ディーン・ストックウェル(当時からニール・ヤングの親友だった)。まさに「奇跡!」のキャスト陣である。

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 その歴史的価値、先見性、そしてバカバカしさから、呆気にとられるしかないシーンが次から次へと飛び出してくる本作。セックス・ピストルズのTシャツを着たニール・ヤングがDEVOをバックに「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)」を演奏するライブシーンは、中でも垂涎だろう。ちなみに1978年1月セックス・ピストルズ空中分解時におけるジョニー・ロットンの「ロックは死んだ」という言葉へのアンサーソングでもあり、カート・コバーンが遺書でその歌詞を引用したことでも知られるこの曲が初めてレコードとしてリリースされたのは1979年。本作撮影の1年後である。「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)」が収録されたアルバム『ラスト・ネヴァー・スリープス』は、ニール・ヤングがパンクに触発された作品として知られているが、その3年後、つまり本作の公開年と同じ1982年には、ニール・ヤングの長いキャリアの中でも屈指の迷作とされているテクノアルバム『トランス』もリリースされている。当然、本作で共演したDEVOからの直接的な影響も大きかったはずだ。

 「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)」ネタを広げるなら、本作の撮影に参加した直後、1980年にデニス・ホッパーは同曲に触発されて、その変奏曲「マイ・マイ、ヘイ・ヘイ (アウト・オブ・ザ・ブルー)」のサブタイトルからそのままとった『アウト・オブ・ブルー』というパンク少女が主人公の青春映画を監督。もちろん、作中でも「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ (イントゥ・ザ・ブラック)」を使用していた。また、本作で共演したディーン・ストックウェルとは、1986年のデヴィッド・リンチ『ブルーベルベット』でも再び共演。まるでお互い秘密を共有した者同士のような、息の合った怪演を見せてくれた。

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 「先見性」という意味では、本作が撮影された翌年の1979年、アメリカであのスリーマイル島原子力発電所事故が起こったことにも触れないわけにはいかないだろう。その時点で本作の撮影はほとんど終わっていたはずだが、公開が1982年まで延びた理由の一つは、「原子力発電所のそばに住む人々」という本作の設定を編集段階でより強調したかったためだとも言われている。

 音楽シーンの最前線ではパンクとテクノの衝撃が無軌道に交差し、西海岸ではヒッピーカルチャーが死に絶え、アメリカ史上初の核施設大規模事故の重大性に多くの人が怯えていた70年代末〜80年代初頭のアメリカ。物語だけを追っていると迷子になってしまいそうになる(ニール・ヤング版『ギャラクシー街道』なんて言わないように! ちょっと似てるけど!)『ヒューマン・ハイウェイ』だが、本作は当時のカルチャーのあまりにも貴重な一断面であり、ポピュラー音楽や映画の歴史における重要なミッシング・リンクの宝庫なのだ。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)。Twitter

■商品情報
『ヒューマン・ハイウェイ≪ディレクターズ・カット版≫ [Blu-ray]』
発売:2月17日
価格:¥4,800+税
品番:KIXF-352
収録時間:本編約80分+映像特典(ニール・ヤングインタビュー、日本版予告編ほか)
発売/販売:キングレコード株式会社

『ヒューマン・ハイウェイ≪ディレクターズ・カット版≫ [DVD]』
発売:2月17日
価格:¥3,800+税
品番:KIBF-1399
収録時間:本編約80分+映像特典(ニール・ヤングインタビュー、日本版予告編ほか)
発売/販売:キングレコード株式会社

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【リアルサウンドより】

 今期も火曜夜10時台は、ドラマの激戦枠となっている。NHKは田中麗奈を主演に岐阜県の山あいの小さな街を舞台とした静かな恋愛劇『愛おしくて』を、TBSは深田恭子とディーン・フジオカのツンデレラブコメディ『ダメな私に恋してください』を、そしてカンテレ制作フジテレビ系では遠藤憲一と渡部篤郎が義理の父と息子になるまでの中年男性の物語『お義父さんと呼ばせて』を、それぞれ放送している。

 初回視聴率は、1週遅れのスタートとなった『お義父さんと呼ばせて』がトップだったものの、右肩下がりですでに半分近く数字を落とした。しかし内容的には決してつまらなくなったというわけではなく、むしろ視聴者の感想も好評である。ホームドラマが時流に合わなかったのか、録画組が増えたのか、はたまた今人気のディーン・フジオカ効果で女性層がTBSに移ってしまったのかは定かではないが、オリジナル脚本の内容や出演者の演技が面白いので、ここは一踏ん張りしてもらいたいところである。同作では、和久井映見や新川優愛など、脇を固める女優陣もいい味を出していて、中でもヒロインである蓮佛美沙子の存在が目立っている。同番組復活の鍵となるのは、おそらく彼女ではないか。

 蓮佛は、遠藤演じる彼氏と28歳差の年の差カップルで、渡部演じる父と対立する娘という難しい役柄を演じている。一見、田中麗奈や深田恭子に比べ存在感は薄いようにも感じるが、その健気な演技はキャラが濃い主役2人の中和剤となり、名バイプレーヤーと呼ぶにふさわしい存在感を発揮している。昨今は、“塩顔”と呼ばれるあっさりした顔立ちの俳優が絶妙なさじ加減の演技とともに注目されており、蓮佛はまさにその代表格として吉田羊と並んで再評価されつつあるが、今回の役柄ではそんな彼女の魅力が存分に活かされているのである。

 実年齢より上に見られがちだが、蓮佛はもうすぐ25歳。顔は知っているという方も少なくないと思うが、2006年のデビューから数多くのドラマや映画に出演し、実は約10年のキャリアがある若き実力派だ。デビュー間もない2007年に出演した映画『転校生-さよなら あなた-』は、男女が入れ替わる大林宣彦の往年の名作『転校生』のリメイク版で、見た目は女性で中身は男、しかもリメイク版では不治の病という設定がプラスされ、相当難しい役柄となっていたのだが、蓮佛は映画初主演にも関わらず違和感なく演じきり、大林監督に「20年に1人の逸材ですよ」と言わしめた。

 時にはボーイッシュ、時には影のある女と、数多くの女子高生役を十人十色に演じてきた蓮佛は、幅の広い役柄を演じることについて「『あの人はこういう役』というイメージを作りたくない」と発言するなど、役者として確固たるビジョンを抱いている。その姿勢は2012年に主演した廣木隆一監督の映画『RIVER』でも活かされ、秋葉原無差別殺傷事件で恋人を失った女性という葛藤のある役柄ながら、ドキュメンタリータッチで自然に演じてみせた。「これまでのことを全て削ぎ落としてお芝居ができた」という演技は、映画『ヴァイブレータ』や『軽蔑』など、女優が人生をかけて体当たりする作品を多く手がけてきた廣木監督さえ「上手すぎる」と唸るほどだった。

 以降、若手演技派女優として映画やドラマ、CMなどに引っ張りだこ。特にNHKドラマとの相性がよく、2014年のドラマ『聖女』では広末涼子を、先月放送された『大奥 第二部~悲劇の姉妹~』では沢尻エリカを相手に、ライバル役を好演した。しかし、実力があってどんな役柄でもこなせるからこそ、いかんせん“渋い”役柄が多く、なかなか知名度の向上に繋がらなかったのも事実。昨年『37.5℃の涙』で主演した際に、視聴率が伸び悩んだのもそのためだろう。

 しかしながら、蓮佛の出演する映画やドラマは総じて評価が高く、のちに隠れた名作と呼ばれることも多い。固定のイメージにとらわれず、色調を抑えた彼女の演技は、まさに隠し味の“塩”のように、周囲の役者や脚本の力を引き出すことができるのだ。だからこそ彼女は制作側にも重宝されるし、今後も息長く活躍できるはずだ。『お義父さんと呼ばせて』もまた、蓮佛の演技が作品の質を高め、より面白い展開となっていくのではないだろうか。

(文=本 手)

■ドラマ情報
『お義父さんと呼ばせて』
毎週火曜22時から放送中
出演者:遠藤憲一、渡部篤郎、蓮佛美沙子
脚本:林宏司
公式サイト:http://www.ktv.jp/otosan/index.html

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