「ラーメンは減点法の食べ物」である

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イメージ画像(足成より)

「おいしさ」や「味」を定義する言葉というのは、たくさんある。たとえば「とってもフルーティー」。これ、相当難しい言葉だと思う。僕は、生レバ刺しを食べると、よく「とってもフルーティー」と言う。そのたびに、周りからは意味不明だと非難の声が上がる。しかし、僕の中では、新鮮でおいしいレバ刺しは「フルーティー」以外の何ものでもないのだ。プリプリと、まるで果実にようにみずみずしく、さわやかささえ漂ってくる。「いや、フルーツ味じゃないし」と言われたら、それはおかしいと反論する。「フルーティー」が果実にだけ使われる言葉だとしたら、果実は当然全部フルーティーに決まってて、そんな言葉は必要ないだろう。なら「ホタティー」という言葉があったら「このホタテ、すごいホタテ味で、とってもホタティー!」と使うのか? ホタテ関係にしか使えないのか? ここでは、フルーティー=果実そのものでなくても「果実のように」おいしいものやみずみずしいものも指す言葉に違いないのだ。味ってさ……それくらい自由なものなんじゃないんか? と、一語でもこんなふうに開幕と同時に侃々諤々と議論する。

 いかように、「食」にまつわる言葉は難しい。「味」や「おいしさ」「食べ物へのイメージ」は人それぞれの主観的なものだし、万人を納得させる「食言葉」は意外と少ないのではないか。

 この手の「食」にまつわる言葉をいろいろと思い浮かべると、最高の市民権を得ているのは「空腹は最高のスパイス」ではないだろうか? これに異を唱える人は少ないだろう。「いやいや、聞いてくれよ! 俺はおなかいっぱいのときのほうが、なんでもおいしくなる!」っていう人がいたら、それは病気か呪いだ。子どもでも老人でも「空腹は最高のスパイス」なのは間違いない。この言葉の持つ圧倒的メジャー感、メインストリーム感はすごい。ロックでいうビートルズ、漫画界でいう手塚治虫のような、燦然と輝く金字塔だ。

 さて、最近、僕には非常にお気に入りのラーメン店がある。一番ハマっていた時期は、わざわざ電車に乗って毎日のように通った。このラーメンを食べたときには、ちょっとそれまで味わったことのない感動があった。10席もない小さめのラーメン店なのだが、すべてにおいて非の打ちどころのないラーメンを出す。烏骨鶏のラーメンで、ハム状のしっとりした鳥チャーシューと、気の利いた旬の青野菜が添えられている。トッピングはワサビというのも変わり種だ。そのラーメンを何度か食べながら、「いったい、こんなに俺のハート(と胃袋)を撃ち抜くこのラーメン、ほかのラーメンと何が違うんだ?」と考えた。確かに、とてもうまい。ズルズル。しかし、うまいラーメンには、人生の中でたくさん出会ってきたはずだ。ズズーッ……。では、このラーメンだけ何が違う……? ゴクリ。

 すると、食べ終わった瞬間に、あることに気づいたのだ。食べ始めたときにおいしいのは当然なのだが、食べ終わったときの満足感が違うんだ、ということに。一口目の「うま~い」という100点の気持ちが、最終的に最後の一口を食べるときまで下方修正することなく100点で「うま~い」のだ。グラフに表すと横一直線。昔からラーメンについて思っていたのは、一口目はおいしいけど、食べ進むうちに急降下していき、最終的に本当の意味での満足を得られない食べ物なのではないか……? ということだ。どんな食べ物でもそういう傾向はあると思うが、ことラーメンは、その傾向が強いんじゃないか、という疑いが拭えなかった。店に入ったときのワクワク感、「これからラーメン食べてやるぜ!」という気合が、「うひょ~、こんなにおいしい食べ物があっていいのかしらん」という一口目を経由し、食べ進むほどに減退していき、店を出るときには満腹感と同時に、一種特有の倦怠感に変わっている。グラフに表すと……表さなくていいか。とにかく、これが僕の抱くラーメンのイメージであった。「いや、当然だろ、それが普通だろ」「お前が年取っただけだよ!」と憤りの諸兄。僕もそう思っていた。しかし、それが、このラーメンにはなかったのだ。店に入ったときのワクワク気分と、店を出るときのウキウキ気分が同じなのだ。アンビリーバボー。まさに奇跡体験。

 つまりこのラーメン、「減点法で100点」なんだ! 一口目が100点のラーメンは幾度となく出会ってきたかもしれない。しかし、減点法で最後まで100点のラーメンには出会ったことがなかった。自分がこのラーメンにスペシャルを感じたのは、その最後まで面倒見てくれる懐の広さによるものだったのか、自分は、こういうラーメンを探していたのか、と。ラーメンを食べて己を知る。白い烏骨鶏スープに映る自分の顔をじっと見る(映らない)。ラーメンは、己を映す鏡なのかもしれない。

 というわけで、この経験から僕がたどり着いた食言葉を、ここに書き残しておきます。

「ラーメンは減点法の食べ物」

 いかがだろうか。皆さんは共感していただけるだろうか?


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●タカハシ・ヒョウリ
“サイケデリックでカルトでポップ”なロックバンド、オワリカラのボーカル。たまにブログでつづる文章にも定評あり。好きなものは謎、ロック、歌謡、特撮、漫画、映画、蕎麦。
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