「ブサイクやオタクは気持ち悪くて嘲笑の対象」という演出がもうダサい! フェイスマスク「オルフェス」の炎上CMと、メンズ香水「AXE」の男たち

 9月下旬。まだ2017年は終わっておらず、あと3カ月残っている段階ではあるが、今年もCMや動画の炎上が多発した1年だったと言えるだろう。これまで問題視されなかった価値観や表現も、「よくよく考えたらおかしいよね」と指摘され、議論が巻き起こる状況になっているということだから、炎上も悪いことばかりではない。また、長澤まさみ主演の『アンダーアーマー』CM、海外作品だが『Nike』や『P&G Always』のCMなど、ジェンダーロールに縛られないエネルギッシュな映像が新鮮で魅了された。古臭いジェンダーバイアスに支配された炎上作品ばかりが目立ってしまいがちだが、そうではない作品、新しい価値観や人間の魅力が表現され、思わず意表をつかれるような作品を制作するクリエイターもいることを知っておきたいものだ。他方、差別や抑圧を誘導するような作品に対しては何度でも批判の声を上げるべきだとも思う。

 9月15日に公開された『LOHAS フェイスマスク オルフェス』のCMは容姿で人を差別しているとして、目下大炎上中である。前述のように今年はCM炎上騒動が多発していたため、最初からそのつもりだったのではないか(炎上商法)という見方も多い。

 動画は3種類ある。<ピンチ編>では、食品類の入った紙袋を抱えた女性が、坂道でリンゴをひとつ落とす。通りがかった男性が拾い上げるが、小柄・小太り・不細工でニヤニヤした笑顔を浮かべるその男性に、女性は露骨に嫌悪感を表す。そんな女性の背後から美人女性(元KARAのク・ハラ)が歩いてくる。すると男性は落とし主の女性にリンゴを返すのではなく、美人女性にリンゴを差し出す。美人女性は怯えたような表情を浮かべ、リンゴを受け取るのだが、急ぎ足で立ち去る。紙袋を抱えた女性も終始、ニヤついた男性に対していかにも気持ち悪いものを見る目つき。キャッチコピーは、「キレイはピンチを招く時もある」。このフェイスマスクを使うとク・ハラさんのように綺麗になれるし、男性から好意を抱かれるけれど、気持ち悪い相手に好意を向けられるのはピンチですよね~、という意味である。

 <チャンス編>では、登場する男性が「イケメン」だった場合の展開が描かれる。やはり食品類の入った紙袋を抱えた女性が、坂道でリンゴをひとつ落とし、通りがかった男性が拾い上げる。こちらは爽やかな風貌の男性で、女性は笑顔に。しかし、あろうことかその男性も、背後から歩いてきたク・ハラに拾ったリンゴを差し出す。ク・ハラも笑顔でそれを受け取る。キャッチコピーは「チャンスはいつでもやってくる」。容貌が美しいと、恋愛のチャンスが増えるということだろう。

 <迷わせる編>も、「イケメン」ver.だが、ク・ハラの行動が違う。男性にリンゴを差し出されたク・ハラは笑みを浮かべつつもリンゴを受け取らずに立ち去っていき、断られた男性はリンゴの持ち主である女性にリンゴを返却するが、当然のごとく女性は不愉快な表情を示す。こちらのキャッチコピーは「キレイは人を迷わせる」。本当ならば拾ったものは落とし主に返すべきだが、キレイな女性が歩いてきたのでこの男性は「迷って」しまったということだ。

 現実的には、見ず知らずの相手に対して、目の前で容貌ジャッジを下して、露骨な嫌悪感や媚びを見せる大人は非常識だし、どれだけ「人は見た目が何割」という文句が流行っても、あからさまにそれを表明するのはマナー違反だと心得ているものだろう。小学生だって、同級生など自分の身近な相手にこのような愚かな態度を取ってしまうことはあっても、ただ通りすがっただけの相手には行わないと思う。

 CM動画では、いい大人が通りすがりの相手に対して失礼極まりない態度を取ることに対して、疑問を呈すどころか「キレイはピンチを招く時もある」「キレイは人を迷わせる」と肯定して、笑える作品のつもりでいるのだから、それは炎上もする。炎上商法と思われても仕方ない。

 下地にあるのは、男女ともに「キレイ」であることが是という価値観。それは私たち誰もが共通して持ってしまっている、ものの見方だろう。しかし、そんな固定観念に縛られて「ブサメンとイケメン」「ブスと美女」の雑な分類を提示しなくても、魅力的な人を見せ、商品プロモーションにつなげることは出来る。

 これはメンズ用香水『AXE(アックス)』のCM。いわゆるイケメンだけではないし、若者だけでも中高年だけでもない、複数の男性たちが生活をエンジョイしているシーンの連続だ。極端にバッドルッキングな男性にダメ出しをするようなこともない(ただ、顔面の美しさをどう捉えるかは受け手次第なので、「結局これだってイケメンばっかり登場してるじゃないか」と感じるユーザーもいるかもしれない)。

 スーツ姿でハットを被る男性、ジムでトレーニングに精を出す男性、鏡の前でボクシングトレーニングする男性、カラフルなシャツとハイヒールで踊る男性、女性を膝に乗せて軽やかにターンする車椅子男性、いわゆる“ナード”風の男性、読書好きの男性、車のドアを蹴るヤンキー風の男性、ピザ屋の男性、ネコと戯れるひげもじゃの男性……。痩せた男性もいればマッチョな男性もいる(しかし肥満体型は見当たらなかった)。異性愛者もいれば同性愛者もいる。スポーツマンもいればオタクもいるし、健常者もいれば障害者もいる。

 世の中に存在する男性はマッチョばかりじゃないと気づいたことがきっかけで誕生したというこのCMは、今までだったらCMでカッコよく取り上げられることがほとんどなかったタイプの男性を次々に映し出し、好評を呼んだたという。それはもっともな話だと思う。世間で最も評価されるような最大公約数のカッコいい男性像だけをアピールするのではなく、多種多様な男性像を描いたほうが、より多くの人々の支持を得られるに決まっているではないか。

 露骨に「ブサイクやオタクを嫌悪・嘲笑する」ことに何の疑問も抱かないような、ダサい文化は上書きしていこう。美男美女のステレオタイプに該当する者だけが人生を謳歌しているわけじゃない(そもそも美男美女のステレオタイプだって、万人が同じ偶像を思い浮かべることは無理だ)。

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