「パンドラ映画館」の記事一覧(5 / 18ページ)

カルト宗教と民間療法は信じる者だけが救われる!? プラシーボな神をめぐる暗黒アニメ『我は神なり』

<p> 神は存在する。ただし、神は存在しないという文脈においてのみ、神は存在する。言い換えれば、神は存在しないことを証明されるために存在する。つまり、神は数字のゼロのような存在だ。存在しないことによって存在する。そんな現実世界には実存しない神の解釈をめぐって、人々は長きにわたって争い、憎しみ合ってきた。実写映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』で大ブレイクしたヨン・サンホ監督の長編アニメ『我は神なり』(英題『FAKE』)では、神のご利益を説くことで信者たちからお金をむしり取るインチキ教団と、そんなインチキ宗教でもすがりつきたいと願う人々の心理を克明に描いた救いのないドラマが紡がれていく。</p>

下着も生ぬるい日常も捨てて、映画へ出よう! 寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』

<p> 映画館の暗闇の中でただ待っていても、何も始まらないよ──。1970年代のカルチャーシーンにおいてカリスマ的存在だった寺山修司は、初監督作『書を捨てよ町へ出よう』(71)の冒頭、映画館へ足を運んできた観客たちをスクリーンの中から挑発してみせた。本を閉じて、現実の町へ繰り出そう。映画を見るのではなく、君が映画の主人公になればいい。詩人、劇作家、演出家と多彩な才能を発揮した寺山は、新しい時代のアジテーターだった。47歳で亡くなった寺山が今も生きていれば、ネット検索なんかやめて、自分の肉体を使って夜の街を検索して回りなさいと説いたんじゃないだろうか。大ブレイク中の菅田将暉と『息もできない』(09)のヤン・イクチュンがダブル主演した『あゝ、荒野』は、寺山が残した同名小説の映画化であり、半年にわたってボクシングのトレーニングに励んだ菅田とイクチュンとがお互いの肉体をぶつけ合うことで奏でる愛憎のセッションを観客は体感することになる。</p>

ホロコースト犠牲者と加害者の孫同士が禁断の愛!? タブーを破る『ブルーム・オブ・イエスタディ』

<p> ナチスによる戦争犯罪やホロコーストを題材にした映画は、これまでにもスティーヴン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』(93)やロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』(02)など、多くの実録作品が作られてきた。ナチスの非道さと過酷な状況を懸命にサバイバルするユダヤ系の人々の生き様を描いたものがほとんどだ。ところが、ドイツ人のクリス・クラウス監督が現代的視点から撮った『ブルーム・オブ・イエスタディ』は、ナチスの戦争犯罪とホロコーストを扱いながらも、これまでの戦争悲話とはまったく異なるアプローチを試みている。なんと、ナチ戦犯の孫息子とホロコースト被害者の孫娘が出逢い、禁断の恋に墜ちていくラブコメディなのだ。</p>

心の障害をバリアフリー化するSEX革命の始まり。非感動ポルノ『パーフェクト・レボリューション』

<p> 乙武くんをマスメディアで見なくなって久しい。ベストセラー本を連発し、自身の原作小説の映画化『だいじょうぶ3組』(13)に出演するなど超売れっ子だった頃は、「障害があるのに下ネタが得意なんて、すごい!」ともてはやされたが、2016年の不倫報道によって「障害者なのに、けしからん!」と世間の手のひら返しに遭ってしまった。だが、不倫の是非は別にして、乙武くんのモテモテぶりに勇気づけられた少数派も存在した。障害者の性的自立を唱える熊篠慶彦氏がその1人。障害者にも性欲はあるし、SEXしたい、めっちゃエロいこともしたい。障害者を特別視し、“感動ポルノ”の素材として扱う社会の偏見そのものをバリアフリー化してしまおう。そんな野心的な映画が、熊篠氏が企画・原案、リリー・フランキー&清野菜名が主演した『パーフェクト・レボリューション』だ。</p>

吉高由里子が売春&快楽連続殺人鬼に豹変した!! 人間の暗黒面に迫る犯罪ミステリー『ユリゴコロ』

<p> ユリの花は純潔のシンボルとされており、ユリの根は不眠や精神不安に効果がある漢方薬ともなる。だが、同じユリ科でもスズランや彼岸花には猛毒があることが知られている。沼田まほかるのミステリー小説『ユリゴコロ』(双葉社)は、人間の中に潜む崇高さと邪悪さの両面を描いた作品だ。『紀子の食卓』(06)や『蛇にピアス』(08)といった先鋭的な作品で存在感を放ってきた女優・吉高由里子は、最新主演映画『ユリゴコロ』では売春婦&連続殺人鬼でありながら、自分の中に根づいたユリゴコロに従って一途に生きるヒロイン・美紗子を演じている。</p>

<p> 沼田まほかるの原作小説が圧倒的に面白い。10月28日(土)には蒼井優、阿部サダヲ主演作『彼女がその名を知らない鳥たち』も公開されるが、沼田まほかるの作品は人間のダークサイドを徹底的に掘り下げることで、逆に人間の持つ善良な部分が浮かび上がってくるという独特のレトリックが駆使されている。普通の主婦、出産、離婚、お寺の住職、建設コンサルタント会社の設立、倒産……、そして56歳にして作家デビューという山あり谷ありの末の遅咲きの花。だが、そんな彼女が生み出す小説は、伝説の植物マンドレイクのように、奇妙で妖しく、一度でも本を開いてしまった者を虜にしてしまう悪の魅力に溢れている。</p>

シュワルツェネッガーの鋼の筋肉が役に立たない!航空事故が生んだ哀しい復讐鬼『アフターマス』

<p> アフターマス(aftermath)とは戦争や災害などの余波、後遺症のこと。アーノルド・シュワルツェネッガー主演作『アフターマス』は、2002年にドイツ南部上空で起きた「ユーバーリンゲン空中衝突事故」の顛末と、事故から2年後に生じた悲劇を描いた実話系映画だ。これまで数々のアクション大作で凶悪犯や宇宙人と戦ってきたシュワルツェネッガーだが、本作では家族を奪われた怒りから事故を招いた管制官に襲い掛かるという、あまりにも哀しい復讐鬼を演じている。</p>

是枝監督の新作さえも侵蝕する黒沢清ワールド! 長澤まさみが観音菩薩化する『散歩する侵略者』

<p> 家の中に赤の他人がいる。かなり不気味なシチュエーションである。ただし、その他人との間に婚姻届が交わされていれば、他人同士は夫婦として世間から認められた当たり前の光景となる。でも、ときどき妻(夫)もしくは同棲中の恋人が、まったく見も知らぬ他人に感じる瞬間はないだろうか。紅茶に入れた角砂糖が溶け出していくように、当たり前だと思っていた日常風景が少しずつ壊れていき、やがては世界全体が崩壊へと向かっていく。黒沢清監督の最新作『散歩する侵略者』は、ありきたりな夫婦の関係の変化から世界の滅亡が始まるスケールの大きなSFサスペンスとなっている。</p>

クリエイターにとっての作家性と変態性は同義語!? P・バーホーベン監督が本領発揮『エル ELLE』

<p> オランダ出身のポール・バーホーベン監督といえば、『ロボコップ』(87)や『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)などのエンタメ作品の中にサディスティックなテイストをこってり盛り込んだことで知られている。自分の中の変態性を作品の中にぶちまけることで人気を博してきた。また、『氷の微笑』(92)のシャロン・ストーンや『ショーガール』(95)のエリザベス・バークレーといった“強い女”を愛して止まない監督でもある。最新作『エル ELLE』(フランス語で彼女の意味)では、『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(86)の作者フィリップ・ディジャンの原作小説を得て、持ち前の変態性をいかんなく発揮してみせている。</p>

切実な居場所さがし『ハイジ アルプスの物語』『幼な子われらに生まれ』に見る不定形な家族像

<p> 自分の居場所がどこにもない、誰からも必要とされていない。現代人にとって、とても切実な問題だ。イス取りゲームのように、ようやく自分が腰かけられるイスを見つけても、すぐに音楽が流れ始め、再び数少ないイスを奪い合うはめに陥る。「こんなゲーム、やめよう」と誰も言い出せないまま、また音楽が流れ始める。それならいっそ、どこかイスのない世界を見つけたい。スイスの児童文学『アルプスの少女ハイジ』は、高畑勲(演出)、宮崎駿(場面設定・画面構成)が手掛けたテレビアニメシリーズ(フジテレビ系/1979年)で日本でもおなじみの作品。スイス・ドイツ合作映画として実写化された『ハイジ アルプスの物語』を観ると、ひとりの少女の居場所さがしという現代的なテーマが込められた物語であることに気づかされる。</p>

腐敗警察24時!! 麻薬大国フィリピンの捜査内情を生々しく暴き出した『ローサは密告された』

<p> 警察を見たらヤクザと思え。思わず、そんな言葉が口からこぼれてくる。フィリピン映画『ローサは密告された』は、2016年のカンヌ映画祭で主人公ローサを演じたジャクリン・ホセに主演女優賞が贈られた力作だ。国家権力を楯に警察官たちが庶民を喰いものにして、とことんしゃぶり尽くす様子がドキュメンタリータッチで生々して描き出されている。</p>

<p> 本作を撮ったのは、“フィリピン映画第三期黄金時代”の中核となっているブリランテ・メンドーサ監督。カンヌ映画祭監督賞を受賞した『キナタイ マニラ・アンダーグランド』(09)では、警察学校に通う純真な若者が警察組織の腐敗構造にどうしようもなく取り込まれていく姿をやはりドキュメンタリータッチで描いてみせた。イザベル・ユペールが主演した『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』(12)では、ホームレス状態の子どもが生きていくためにゲリラ兵にならざるを得ないフィリピンの社会背景について言及した。目覚ましい経済発展を遂げる一方、激しい社会格差を生んでいるフィリピンのダークサイドにメスを入れ続けている監督だ。本作では主演女優ジャクリン・ホセたちの熱演もあって、スクリーンのこちら側で見ている観客をもマニラの闇世界へと引き込んでいく。</p>

サブコンテンツ

このページの先頭へ