君がアル中で、どんなキチガイでもいいんだぜ! ゆうばりグランプリ受賞作『トータスの旅』
<p> 誰かの葬式に参列し、焼香する度に、中島らもの自伝的小説『バンド・オン・ザ・ナイト』を思い出す。小説の中でらもさんは「葬式には行かなかった。葬式に行かないのはおれの流儀で、あの黒枠に囲まれた写真を見てしまうと、もうほんとうにお別れだと感じてしまう。葬式に行かずに、あの黒枠の写真さえ見なければ、いつかどこかの街でばたっと会うような、そんな気のままでいられるからだった」と語った。らもさんを見習いたくもあるけど、亡くなった人の思い出だらけのままでは生きづらい人もいる。若手監督の登竜門として注目される「ゆうばりファンタスティック映画祭」オフシアター部門で今年のグランプリを受賞したのは、永山正史監督の『トータスの旅』。自分の前から姿を消した大切な人を弔うために七転八倒する男たちのロードムービーとなっている。</p>
<p> 上映時間82分と短い尺だが、中身はなかなか濃い『トータスの旅』。サラリーマンの次郎(木村知貴)が、ひとり息子の登(諏訪瑞樹)と暮らすアパートから物語は始まる。次郎は妻に先立たれてから、ずっと空っぽな日々を過ごしてきた。その空っぽさを隠すために、登の前ではいい父親であろうと努めている。反抗期に入った登は、常識を押しつけようとする父親も学校も大嫌いだった。ある朝、ずっと音信不通だった次郎の兄・新太郎(川瀬陽太)が婚約者の直子(湯舟すぴか)を連れて現われ、「これから結婚式だ、支度しろ」と言い出す。会社に通ってはいるものの心は虚ろな次郎と不登校状態が続いていた登を連れて、強引に車中旅に向かう新太郎と婚約者。登が生まれる前から次郎が飼っているペットの亀も一緒だ。</p>