「20パンドラ映画館」の記事一覧(4 / 14ページ)
2017年3月23日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]
<p> 沖縄の基地問題をめぐって紛糾が続いている。中国と日本は戦争をすることが既定路線になっているかのようだ。風雲急を告げる沖縄を拠点に、三上智恵監督は地元民の視点からドキュメンタリー映画を撮り続けている。琉球朝日放送在籍時に製作した『標的の村』(12)は沖縄本島北部のやんばるの森でベトナム戦争時に米軍が訓練の一環として化学兵器を使用していた事実をスクープし、大反響を呼んだ。フリーとなって製作した第2弾『戦場ぬ止み』(15)では辺野古で座り込みを続ける文子おばぁたちの素顔をクローズアップし、大戦中に沖縄の人たちが味わった悲惨な記憶を現代に呼び起こした。そして第3弾となる『標的の島 風かたか』では、自衛隊によるミサイル配備が進む宮古・石垣島の切迫した状況を伝えている。元テレビ局のアナウンサーらしく、沖縄の一見すると難しそうな問題もわかりやすく紐解いてくれるのも三上監督のドキュメンタリー映画の特徴だろう。</p>
<p>『標的の島 風かたか』の“風(かじ)かたか”とは沖縄の言葉で風よけ・防波堤のことを意味している。本作では“3つの防波堤”が描かれる。太平洋戦争末期、沖縄では米軍との唯一の地上戦が繰り広げられ、沖縄の人たちが血を流して倒れていく間に、日本の閣僚たちは和平工作を図った。沖縄を米軍に対する防波堤にすることで、日本の本土は終戦を迎えた。日本と中国がまた戦火を交えることになれば、再び沖縄が防波堤の役目を負うことになる。これが、第1の防波堤だ。<br />
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「戦争が起きれば“防波堤”となるのはどこなのか? 三上智恵監督の最新ドキュメンタリー『標的の島』」の続きを読む
2017年3月15日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]
<p> 今の日本でどれだけの人が飢えで亡くなっているのか? 気になってネット検索してみた。21世紀に入ってからも毎年50人前後の人たちが食糧の不足のために亡くなっている。生活保護の申請が認められなかった人、もしくは生活保護を受けることを拒んだ人たちだ。外部との交流を断ち、生きる気力を失って自宅で亡くなるケースが多い。栄養失調が原因で亡くなった人も合わせると、毎年2,000人近くの人たちが亡くなっている。2016年のカンヌ映画祭パルムドール(最高賞)を受賞したイギリス映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』を観ながら、生活保護受給者への締め付けが厳しくなっている日本も他人事ではない恐ろしさを感じた。</p>
<p>『わたしは、ダニエル・ブレイク』は社会派映画の巨匠ケン・ローチ監督の作品。常に労働者階級の立場から映画を撮り続けてきたケン・ローチ監督は前作『ジミー、野を駆ける伝説』(14)を最後に引退するはずだったが、社会格差がますます進む母国の現状を放っておくことができず、引退を撤回して本作を撮り上げた。80歳になる大ベテラン監督の不条理な社会への怒りと人生の酸いも甘みも噛み分けた男ならではの温かみが込められた作品だ。</p>

「セーフティネットが取り外された恐怖の現実世界! 下流層の叫び『わたしは、ダニエル・ブレイク』」の続きを読む
2017年3月9日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]
<p> 風俗嬢を専門に狙った実在の連続殺人鬼を主人公にした『チェイサー』(08)、中国と北朝鮮との国境沿いに暮らす朝鮮族が経済的な貧しさゆえに犯罪に手を染める実情を追った『哀しき獣』(10)と、韓国の鬼才ナ・ホンジン監督は殺人者の心情に異様なまでに肉迫してきた。長編3作目となる『哭声 コクソン』は前2作とは真逆の立場に立った作品だ。恐ろしい事件になぜ巻き込まれてしまったのかという、被害者側の立場から猟奇殺人事件を捉えたものとなっている。物語の重要なキーパーソンを國村隼が演じており、國村はふんどし姿で生肉を喰らい、山野を駆け回る大熱演を見せ、韓国のメジャーな映画賞「青龍映画賞」(助演男優賞、人気スター賞)を外国人として初受賞。作品も難解な内容ながら、リピーターが続出し、韓国で700万人を動員する大ヒット作となっている。</p>
<p>『哭声 コクソン』は単純にジャンル分けすることができない作品だ。物語の序盤は、静かな村で一家惨殺事件が起きる殺人ミステリーとしてスタートする。最初は毒キノコを食べた村人が幻覚症状を起こして身内を殺傷沙汰に追い込んだ偶発的な事故かと思われていたが、同じような事件が村で多発。気のいい駐在員のジョング(カァク・ドウォン)は、山で暮らす男(國村隼)が怪しいという噂を耳にする。ジョングが山の中にある男の家を調べると、一連の事件現場の写真がなぜか部屋に貼ってあり、禍々しい呪術用具が並べてあった。その日以来、ジョングの愛娘ヒョジン(キム・ファニ)の様子がおかしくなる。娘が暴言を吐き、暴れ回る姿は、まるでオカルト映画『エクソシスト』(74)で悪魔に取り憑かれた少女リーガンのようだった。<br />
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「ふんどし姿で走り回る國村隼は悪魔か救世主か? 殺人事件を“神の視点”で捉えた『哭声 コクソン』」の続きを読む
2017年3月2日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]
<p> 人間ならざる美女と出逢った若者の心に刻み込まれた死への恐怖心と背徳的な性欲とがもたらした奇妙なラブストーリー。ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲が書き残した『怪談』の中の一編『雪女』は、エロス&タナトスに彩られた珠玉のエピソードだ。ギリシャで生まれ、アイルランドで育った小泉八雲は日本での質素な生活を愛し、妻・節子に日本の昔話を語らせることで『怪談』を書き上げた。『アラビアンナイト』の語り部・シェヘラザードのように、節子は夜ごと艶かしく日本に言い伝わる不思議な物語を夫・八雲に語って聞かせていたのだろうか。杉野希妃監督&主演作『雪女』は“もののけ”と人間との禁断の愛を官能シーンを交えながら描いている。</p>
<p> 小泉八雲が書き伝えた掌編『雪女』をベースに、杉野監督は独自の解釈を加え、上映時間96分の長編映画に仕立ててみせた。時代設定は明確にしていないが、昭和時代を思わせるのどかな山村が舞台だ。若い猟師の巳之吉(青木崇高)は仲間の茂吉(佐野史郎)と冬山へ猟に出たが、激しい吹雪に遭い、狭い小屋で夜を明かすことになる。夜更けに目が覚めた巳之吉は茂吉の上にひとりの女が覆い被さり、茂吉の命を吸い取る瞬間を目撃してしまう。白装束姿の女は雪女(杉野希妃)だった。巳之吉が恐ろしさのあまり身動きできずにいると、雪女は「このことは誰にもしゃべるな。もし、しゃべったら、お前の命を奪う」と言い残して姿を消す。巳之吉は恐怖心と共に、この世のものと思えない雪女の美しさが忘れられなくなる。それから1年後、巳之吉は山道で迷っている若い娘・ユキ(杉野2役)と出逢う。ユキが雪女とそっくりなことに巳之吉は驚くが、巳之吉は母親(宮崎美子)が待つ我が家へとユキを案内する。母親はひとり者の息子が若い娘を連れてきたことに大喜びした。</p>

「もののけと肉体関係を結ぶという至高の背徳感! 小泉八雲の世界を実写化した官能ホラー『雪女』」の続きを読む
2017年2月24日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]
<p>人類はこれまでに数々の大量虐殺を繰り返してきた。ナチスによるホロコーストでは600万人ものユダヤ人が犠牲となり、太平洋戦争を早期終結させるという名目のもとに広島と長崎に原爆が投下された。そして現在もスーダンではダルフール紛争が続いている。これらの虐殺行為は戦時下や特殊な環境で起きたものであって、自分なら絶対にこんな非人道的な行為に加担しないとあなたは思うはずだ。だが、あなたの信念を揺るがす実験がかつて米国で行なわれた。社会心理学者スタンレー・ミルグラム博士による「アイヒマン実験」がそれだ。62.5%の人間は命令されれば、恨みのない他人に対しても暴力行為を働くことをこの実験は証明してみせた。映画『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』は「アイヒマン実験」がどのように行なわれたのか、またこの実験結果によってミルグラム博士はどのような人生を歩んだのかを描いている。</p>
<p> 1961年8月、米国のイェール大学にて「アイヒマン実験」は実施された。ユダヤ系米国人であるミルグラム博士は、同年エルサレムで開かれたアイヒマン裁判に強い関心を示していた。元ナチスの親衛隊員でユダヤ人を収容所に移送する際に指揮を執ったアドルフ・アイヒマンだが、裁判の被告席に引きずり出された彼は自分の非を認めず「命令に従っただけ」と最期まで主張した。ヒトラーのような権力者から命令されれば、人間は誰しもホロコーストのような大量虐殺に加担してしまうものなのか。ミルグラム博士は人間の持つ残酷性を科学的に解き明かそうとした。<br />
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「ぼくらはみんな『アイヒマンの後継者』だった!? 平凡な市民の残酷さを明るみにした不快な実験結果」の続きを読む
2017年2月17日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]

バンコクにある日本人専門の歓楽街タニヤ通りで働く女たち。彼女らとのコミュニケーションは日本語でOK。
女、ドラッグ、拳銃……。男が欲しいものは、そこへ行けばすべて手に入るという。タイの首都バンコクは、自国に息苦しさを感じている男たちを否応なく惹き付ける魔力に溢れている。日本人専門の歓楽街タニヤ通りに繰り出せば、日本語の看板と妖しいネオンがきらめいている。店のドアを開くと、甘い匂いを漂わせたセクシーな美女たちがひな壇にずらりと並び、指名されるのを待っている。男たちの脳内物質を刺激して止まない、そんな夜の歓楽街へとカメラはごく自然に入っていく。そして、男と女の出逢いと別れのドラマをカメラは映し出す。富田克也監督ら空族によるインディペンデント映画『バンコクナイツ』は、日本映画でありながら今まで描かれることのなかったタイの内情とバンコクに集まる人々の心情を赤裸々に描き出していく。
富田監督は前作『サウダーヂ』(11)で自身の故郷・甲府を舞台に、地方都市で暮らす肉体労働者や外国からの移民たちのシビアな日常を描き、国際的な評価を得た。『サウダーヂ』に出てきた人々は働いても働いても楽にならない生活に疲れ、楽園に旅立つことを夢想する。そんな彼らの楽園願望を叶えてくれる先が、“ほほえみの国”タイだった。構想10年、製作に4年を要し、映像制作集団・空族を支援するファンから集まったクラウドファンディングで完成したインディペンデント大作が『バンコクナイツ』だ。この世界に楽園は存在するのか? そんな楽園での暮らしはどんなものなのか? レオナルド・ディカプリオ主演作『ザ・ビーチ』(00)とは異なるリアルな楽園像を空族は追い求めていく。
上映時間182分という長尺ながら、物語はシンプルさを極めている。日本人男性がタイの女性と恋に堕ち、楽園を目指すというものだ。バンコクのタニヤ通りで働くラック(スベンジャ・ポンコン)はお店でNo.1の人気嬢。裏パーティーに呼ばれたラックは、そこでかつて恋人だったオザワ(富田克也)と再会。元自衛官のオザワはバンコクに出てきたばかりのラックと出逢い、2人は恋に陥った。その後、オザワはネットゲームで日銭を稼ぐ、いわゆる海外沈没組に成り下がってしまう。高給マンションで暮らすようになったラックとは身分違いとなったが、それでも5年ぶりに巡り合った2人は焼けぼっくいに火が点くことに。そんなとき、オザワは自衛隊時代の上官・富岡(村田進二)からタイの隣国ラオス周辺の不動産の調査を依頼される。ラックの故郷イサーン地方は、ラオスとの国境に近い。オザワとラックはバンコクから抜け出すように、イサーン地方へと向かう。ラックの故郷で暮らす人々は、みんな純朴だった。自然が豊かで昔ながらの共同体が残るイサーンは、日本の高度成長期の田舎町を思わせ、どこにも居場所のないオザワの目にはまるで桃源郷のように映った。
ラックをはじめとするタイの女性たちは美しく、たくましく、そして情が深い。彼女たちはプロの女優ではなく、実際に夜の街で働く女たちだ。現在はバンコクで暮らし、プロモーションのために日本に帰ってきた富田監督は『バンコクナイツ』の舞台裏をこう語った。
富田「僕と脚本を担当した相澤(虎之助)の2人で夜のバンコクを歩き回って、『この子、いいな』という女の子たちに声を掛けていったんです。タニヤ通りの撮影は苦労しました。何度も通ってお願いしているうちに、『いつになったら撮るんだ?』と訊かれるような関係になった。タニヤ通り以外のシーンの撮影を先に済ませ、もう機は熟しただろうというタイミングでタニヤ通りでカメラを回そうとしたんですが、やっぱりダメで騒ぎになっちゃったんです。そこでようやくボスが現われて、呼び出されました。タニヤ通りは複雑で、最終的な話を誰につければいいのか分からなかったんです。僕らの切り札は、それまでに撮った映像だけ。ダイジェストをボスに見てもらったところ、『OK。パーフェクトだ!』と(笑)。翌日からはスムーズに撮影できるようになりました。撮影がOKになった要因として、この映画に出演してくれた女の子たちがみんなで『この人たちは悪い人たちじゃないよ。撮影させてあげて』と頼んでくれたことも大きかったと思います。『バンコクナイツ』が撮影できたのは、本当に彼女たちのお陰です」

タイ名物の三輪タクシー・トゥクトゥクに乗るラックとオザワ。富田監督はオザワ役も兼ねている。
タニヤ通りで働く女たちとそこに群がる日本から来た男たちとの関係を有りのままに映し出した前半のバンコク編から、中盤からはラックの故郷であるタイ東北部のイサーン編へ。タイ名物の三輪タクシーに乗ったオザワとラックは心地よい風を浴びながら、恋愛すらも金銭を介するバンコクを脱出する。ラオスとの国境が近いイサーン地方は、質素で人情味溢れる土地だった。異邦人ながらオザワは自分が生まれ育った日本からは失われしまったものが、ここには残っていることを実感する。身も心も癒されていくオザワ。だが、長く滞在していれば、当然ながら100%のユートピアがこの世には存在しないことが分かってくる。ノスタルジックさが漂う村だが、ここにはまともな産業がなかった。ラックの実家は彼女がバンコクで体を張って稼いだお金によって生活を維持していた。この村では女は娼婦に、男は出家して僧になるか軍隊に入るかしか道はなかった。地方都市の惨状を描いた『サウダーヂ』と同じように、“ほほえみの国”タイでも中央と地方との地域格差、搾取する側とされる側との大きな壁があることが明らかになってくる。
『サウダーヂ』に続いて『バンコクナイツ』でも共同脚本を務めた空族の相澤虎之助氏は90年代をバックパッカーとして過ごし、東南アジア各国の内情に詳しい。相澤監督作として東南アジアと戦争、麻薬の関係について掘り下げた『花物語バビロン』(97)や『バビロン2 The OZAWA 』(12)を撮っている。日本とタイを行き来する相澤氏にも話を聞いた。
相澤「タイ東北部のイサーン地方は、ラオスとの国境に近く、異なる文化や気質を持っている地域なんです。バンコクで働く娼婦やタクシー運転手たち出稼ぎ労働者の8割はイサーン出身だと言われているくらい経済的には貧しいけれど、ラオスの文化と交じり合った独特の音楽も生まれています。タイは歴史的に一度も植民地化されたことがなく、ベトナム戦争とも無関係だったと思われているけど、ベトナムへの米軍の前線基地がいちばん多く作られたのがイサーン地方であり、ゲリラが解放区を造ったのもイサーンだった。バンコクの歓楽街もベトナム戦争に従軍した米兵たちのためのリゾートとして誕生したという背景があるんです。欧米による植民地化が始まって以降、東南アジアの歴史にはずっと戦争と売春産業がセットになって刻まれているんです」

仏教国であるタイらしさを感じさせる出家式。ご近所さんが集まって、賑やかにお祝いする。
オザワのような旅行者にはパラダイスとして映っていたイサーン地方だが、その土地で暮らしているうちに楽園のダークサイドが次第に見えてくる。毎晩バーに現われるフランス人は世界各地を旅していたが、欧米が宗主国として君臨していた旧植民地にしか足を踏み入れていないことが分かる。深い森の中では、ゲリラ兵たちが今も幽霊となって戦いを続けていた。そしてオザワが国境を越えてラオスへと渡ると、そこにはより生々しい戦争の傷跡がむきだし状態で残っていた。大きな時代のうねり、歴史の流れをオザワは全身で体感することになる。
『サウダーヂ』同様に資本主義経済の波に呑まれ、下流層から脱することができない人々の哀歓を描いた『バンコクナイツ』だが、日本から離れたタイを舞台にしていることで、より鮮明に現代社会の問題構造が浮かび上がって見えてくる。ちなみに米国のラストベルトの荒んだ現状を描いたクリント・イーストウッド主演・監督作『グラン・トリノ』(08)で主人公コワルスキーの隣家で暮らしていたのはラオスからの移民であるモン族一家だった。相澤氏によるとモン族の多くはベトナム戦争の終結と共に内戦状態のラオスからタイのイサーン地方へと避難し、さらに米国に渡ったという。タイを舞台にした『バンコクナイツ』は、甲府を舞台にした『サウダーヂ』、そしてデトロイトの物語『グラン・トリノ』とも繋がっていることになる。
楽園の本当の姿を知ったオザワは、クライマックスで一丁の拳銃を手に入れる。大きな時代のうねり、社会の激流に、たった一丁の拳銃で立ち向かうことにどれだけの意味があるのか。迫りくる絶望に足を絡め取られそうになりながらも、それでも彼は生きることを選択する。それは幻の楽園を追い求めるのではなく、苦い現実世界に向き合うことに他ならなかった。
(文=長野辰次)

『バンコクナイツ』
監督/富田克也 脚本/相澤虎之助、富田克也
撮影・照明/スタジオ石(向山正洋、古屋卓麿)
録音/山﨑巌、YOUNG-G DJs/Soi48、YOUNG-G
出演/スベンジャ・ポンコン、スナン・プーウィセット、チュティンバー・ポンピアン、タンヤラット・コンプー、サリンヤー・ヨンサワット、伊藤仁、川瀬陽太、田我流、富田克也
配給/空族 2月25日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)Bangkok Nites Partners 2016
http://www.bangkok-nites.asia

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「日本人専門歓楽街タニヤ通りで生きる女と男の物語 『バンコクナイツ』に見る楽園のリアルな内情!!」の続きを読む
2017年2月11日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]
<p> 慶應大学には付属校から上がった内部生と大学から入った外部生との間に見えない溝が存在し、早稲田大学では一流企業に就職するための猛烈なコネづくりが行なわれている──。有名大学のえげつない内情を克明に描いた貫井徳郎のミステリー小説『愚行録』(東京創元社)が、妻夫木聡&満島ひかり主演作として映画化された。本作で長編デビューを果たしたのは、ポーランド国立映画大学で演出を学んだ新鋭・石川慶監督。にこやかな表情を浮かべながらも、いっさい本音を吐くことのないエリート階級の人々の腹黒い内面を、乾いた映像で切り取ってみせ、魅力的なドス黒系エンターテイメントに仕立てている。</p>
<p> 誰からも愛された美男美女のエリート夫婦とその娘が新築されたばかり自宅で刺殺されるという陰惨な事件が起き、犯行から1年が経っても犯人の手掛かりはつかめない。週刊誌記者の田中(妻夫木聡)はエリート夫婦の過去を知る関係者たちへの取材を始める。被害者夫婦の友人たちは「あんないい人がなぜ?」と首を傾げるが、その言葉の裏側から被害者夫婦の意外な素顔が浮かび上がってくる。さらに田中が取材を進めていくと、今の日本は格差社会どころか、歴然とした階級社会であることを思い知らされる。実の妹・光子(満島ひかり)が我が子をネグレクトしていた疑いで拘置所送りとなっている田中にとって、エリート階級とその階級に憧れる人々たちの言動はあまりにも虚しく感じられた。<br />
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「日本は格差社会ではなく、すでに階級社会だった!? 『愚行録』が暴くこの国の見えないヒエラルヒー」の続きを読む
2017年2月5日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]
<p>2016年は『シン・ゴジラ』『君の名は。』『この世界の片隅に』など想定外の大災害にどう向き合うかをテーマにした作品が大きな反響を呼んだが、矢口史靖監督のオリジナル脚本作『サバイバルファミリー』もその流れの一本に加えることになりそうだ。もしも、まったく電気が使えない状況になったら、どーなる!? 灯りが消え、パソコンも電化製品もいっさい使えなくなり、街全体がパニックに陥る中、ごく平凡な一家・鈴木家の人々は東京から鹿児島までの道程1,400キロを自転車で走破しようとする。スマホでの位置確認はできず、コンビニでの食料補給も叶わない中、鈴木家の人々はいかにしてサバイバルツアーを続けるのか。コメディを得意とする矢口監督ならではの明るいサバイバルムービーの始まりだ。</p>
<p> 矢口監督にとって、本作は10年ごしの企画だった。実話を題材にした『ウォーターボーイズ』(01)をロングランヒットさせた矢口監督が、次回作として考えていたのがパソコンやケータイなどのデジタルツールが使えなくなるというSFパニックものだった。折しも2003年には北米で原因不明の大停電が起き、NYが大騒ぎになっている様子がニュース映像で伝えられた。矢口監督は電気のない世界を、デジタルツールが苦手な人々(矢口監督がそう)にとっての楽園として描くことを考えていたが、スケールが大きな割りには映画としては地味なことから、矢口監督がホームグランドにしているアルタミラピクチャーズではこの企画は凍結扱いに。ところが2011年に福島第一原発事故に伴う計画停電が全国的に実施され、“電気が使えなくなる”という状況がとても身近なものとして浮上してきた。矢口監督にとって初となるパニック映画『サバイバルファミリー』はこうして動き出した。<br />
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「矢口史靖監督流“楽しい”ディザスタームービー!『サバイバルファミリー』が描く電気のない世界」の続きを読む
2017年1月27日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]
<p> 戦争を始めるのはいつも金持ちたちで、戦場で死体の山となっていくのはビンボー人だけ。数百年、数千年と人類はそんな歴史を繰り返してきた。金持ちや政治家たちの利権争いだと分かっていても、安定した仕事のないビンボー人は食べていくために軍隊に入らざるを得ない。戦場の悲惨さを知って脱走すれば、裏切り者として真っ先に処刑される。ちょっと待てよ、それっておかしいだろ? 米国人同士が殺し合った南北戦争のさなか、ビンボー人だけが戦場に駆り出される不平等さに異議を申し立てたのがミシシッピ州の農民ニュートン・ナイトだった。マシュー・マコノヒー主演作『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(原題『FREE STATE OF JONES』)は、南北戦争中に南軍でなければ北軍でもない、“ジョーンズ自由州”を立ち上げた歴史上の人物、でもほとんどその存在を知られていなかった無名の英雄にスポットライトを当てている。</p>
<p> 時代は1862年。米国は北軍と南軍に分かれた南北戦争の真っ最中だった。南北戦争は工業化が進む北部と農園経営で成り立つ南部との主導権争いから起きた内戦で、4年間の戦いで60万人もの戦死者が出ている。この数字は米国が関わった戦争で最も多い犠牲者数だ。南軍に属するミシシッピ州ジョーンズ郡出身の白人農民ニュートン・ナイト(マシュー・マコノヒー)は北軍に対する恨みはないが、兵役のため否応なく戦場に駆り出されていた。同じ隊の仲間から「奴隷を20人所有している農園の長男は兵役を免除される。40人所有していれば次男も免除される」という黒人20人法という新しい法律ができたことを知らされ、あまりの不平等さに怒りを覚える。そんなとき、ニュートンのまだ幼い甥っ子ダニエル(ジェイコブ・ロフランド)が新兵として戦場に送り込まれてきた。銃の扱い方も知らないまま最前線に立たされたダニエルは、北軍の銃弾を浴びてあっさりと戦死。我慢の臨界点を越えたニュートンは甥っ子の亡がらを実家に届けるため、無断で軍隊から離脱する。</p>

「超保守化する米国社会に反旗を翻した男がいた!! マシュー・マコノヒー主演『ニュートン・ナイト』」の続きを読む
2017年1月19日 [06連載, 20パンドラ映画館, パンドラ映画館, 恋愛ニュース, 映画]
<p>『愛のむきだし』(09)でのブレーク以降、日本で最も忙しい映画監督となった園子温監督。2017年も正月から『新宿スワンII』(1月21日公開)と「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」の1本『アンチポルノ』(1月28日公開)が同時期に劇場公開される。相変わらずの売れっ子ぶりだが、どうやら我々が知っている園子温監督は2人存在するらしい。ひとりは『冷たい熱帯魚』(11)など従来の日本映画の枠組みをブチ壊す野心作を放つ♂園子温であり、もうひとりは現代社会の歪みを繊細に受け止めた『恋の罪』(11)や『ひそひそ星』(16)などのアート系の作品を得意とする♀園子温である。園子温はふたりいる、そう考えると園監督の多彩すぎるフィルモグラフィーはすっきりする。前作のヒットを受けて製作された『新宿スワンII』はさしずめアクション満載の男の子映画であり、初期の秀作『桂子ですけど』(97)などは典型的なガールズムービーだ。男女共に人気の高い『愛のむきだし』や『ヒミズ』(12)には男性視点と女性視点がせめぎあう複眼的な面白さがある。</p>
<p> AKB48の元研究生・冨手麻妙(とみて・あみ)を主演に抜擢した『アンチポルノ』は、完全に♀園子温作品だと言っていい。人気女流作家・京子(冨手麻妙)の華麗で刺激的な1日が、これまでになくカラフルなセットの中で描かれていく。宮崎萬純が主演した官能作『奇妙なサーカス』(05)と同じように、どこまでが現実なのか、それとも京子の妄想世界なのか分からない、メタフィクション的ストーリーが展開されていく。</p>

「日活ロマンポルノは現代社会にどう蘇ったのか? 園子温が撮った極彩色の悪夢世界『アンチポルノ』」の続きを読む